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 キャリー・フランチェスカ・ドーリーは昔から気難しい女性だった。


 オリバーが親から彼女を紹介されたのは二年前。紹介されたとはいっても、どこの夜会にも顔を出していると言っても過言でないほど夜会好きの彼女の存在は知っていた。


 オリバーの父であるモードミッシェル公爵とドーリー伯爵はチェス友達で、そろそろ適齢期で相手を見つけたいというドーリー伯爵に、父が酔った勢いで差し出したのがちょうど年の近かったオリバーというわけだ。


 オリバーにしてみればまったく迷惑な話だったが、キャリーと結婚すればドーリー伯爵の名前がついてくるし、父に子爵の爵位をもらって過ごすよりは、世間的なプライドも満足できる。悪い話ばかりではなかった。


 キャリーも、気難しいし短気で我儘だが、たまに可愛いところもある。貴族の結婚なんて感情だけでどうにかなるものではないと物心ついた時から諦めていたオリバーは、切り替えも早かった。


 キャリーの機嫌を損ねず、平穏な結婚生活を送ろう。機嫌さえ損なわなければ、それほど悪い女性でもない。


 オリバーの読み通り、婚約した彼女は、機嫌のいいときは扱いやすかった。そして彼女の機嫌を取るのは、慣れてしまえばそれほど難しいことでもない。とにかく、彼女が言うことを二つ返事で聞いてやればいいのだ。そうすれば彼女はとても機嫌がよく、オリバーに対しても優しかった。


 しかし、ひとたび機嫌を損ねると、機嫌を取るのにオリバーはとても骨を折った。


 キャリーの機嫌はそう簡単にはなおらないし、それがオリバーでどうすることもできない事柄であればなおさらだ。


 そう――、今まさに、オリバーはその最悪な事態に追いやられていた。


 祭りがなくなり、王都にも戻れなくなった彼女の機嫌と言ったらとてつもなく悪い。機嫌を取ろうと思って部屋を訪れ、クッションを投げつけられて追い出されたオリバーは、彼女の部屋の前でこめかみをもんだ。


 さて、どうしたものか――


 オリバーはこの邸にキャリーを呼んだことを後悔したが、それは仕方のないことだった。


 オリバーは、友人であるレオナードが婚約した――事実は違うが――という噂を聞きつけ、その女性に会ってみたくなったのだ。


 その女性は、廃れたはずだったエーデルワイド伯爵家の末裔で、彼女の子供にその爵位が与えられるとあってはなおさらだった。


 あのレオナードが婚約するなんて、どんな女性だろう――。


 レオナードは昔からモテたが、なかなか相手を一人に絞らないことでも有名だった。適当なところで妥協すると言うくせに、結局妥協点が見つからないのか、親に女性を紹介されても、近衛隊の仕事を口実にのらりくらりとかわしていた。


 そのレオナードが求婚したと聞いたとき、オリバーは耳を疑ったのだ。


 本気だろうか。それとも、気まぐれだろうか。その真意が知りたくて、またその相手の女性がどんな娘なのが知りたくて、オリバーはうずうずした。


 そこでオリバーは、祭りを口実に新しく買った邸に遊びに来ないかと誘ってみた。


 オリバーも祭りの期間はこの邸に滞在するつもりだったし、郊外の何もない田舎に一人でいるのも面白くないからちょうどいい。


 しかしオリバーは婚約していて、キャリーを無視してオリバーとその婚約者を誘ったとわかっては、彼女の機嫌を損ねるのはわかりきっていた。


 そのためオリバーは、仕方なくキャリーも誘ったのだ。それがこんな仇になるとは想像しなかった。


「キャリー、どうだろう。祭りはないけど、町に出れば少しは気が晴れるかもしれないよ?」


 オリバーは部屋の外から婚約者に話しかけた。


 しかし返事はなく、そのかわりに、扉がバン! と大きな音を立てた。クッションでも投げつけたのだろう。


 オリバーは大きなため息をついて、これ以上は無理そうだなとあきらめた。

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