7
その夜、オリバーに馬車を出してもらって、エリザベスたちは町へ向かった。
キャシーとオリバー、セルジオ伯爵と助手のフリップもそれぞれ馬車で町へと向かうらしい。
年に一度の、そしてこのあたりの町で唯一の祭りということもあって、エリザベスが町に到着した時はすでに町中が盛り上がっていた。
あちこちに
エリザベスとレオナードも、オリバーが用意した仮面を装着して町を歩く。
焼いた肉や酒、揚げ菓子などの屋台が町中に並んでおり、エリザベスは夕食を腹半分くらいにしておいてよかったと思った。
「あんまりうろうろしないでくれ。これだけの人だ、はぐれたら見つけにくい」
きょろきょろとよそ見をしながら歩くエリザベスの手を握って、レオナードが注意した。
エリザベスは、勝手に触れるなと手を振りほどこうと思ったが、確かに言われた通りはぐれると大変だと思いなおし、素直に手を握られておくことにした。
「ねえ、あれ! あれ美味しそうじゃない?」
腸詰を焼いたものをパンにはさんで売っている店を発見して、エリザベスはレオナードの手をぐいぐいと引っ張った。
レオナードの邸でも、オリバーの邸でも出てこないが、エリザベスは腸詰が大好物なのだ。
「買ってやるから、こら、急ぐな」
レオナードとともに屋台に並び、腸詰を買ってもらったエリザベスは、嬉しそうにそれにかぶりつく。
レオナードは別の屋台で酒を購入して、二人で奥の広場に向けて歩いた。
奥の広場では大きな炎がたかれて、それを囲んで踊っているらしい。
社交ダンスはできないが、リズムに合わせて飛んだり跳ねたりする踊りは大好きだ。シスターにははしたないと怒られたが、修道院でも友達とともに手を叩いて踊って遊んだ。
「ちょっと踊ってくる!」
エリザベスは広場に到着すると、ぱっとレオナードの手を離して踊りの輪に加わった。
「あ、こら!」
レオナードが焦ったように声をあげるが、エリザベスは知らん顔で、手を叩き、足を跳ね上げながらくるくると踊り出す。
ドンドンという太鼓の音に合わせてくるりくるりと回って移動すれば、どんどんレオナードの姿が遠ざかっていった。
そんなエリザベスを、慌てたように追いかけてくるレオナードが見えて、エリザベスはおかしくなる。
炎の周りをくるくる回っているだけなのだから、いずれは元の位置に戻るのに、おかしな人。
そうして、踊りながら動くたびに追いかけてくるレオナードの姿を見ながら、エリザベスが一周回り終わると、ぱっとその手を取られて踊りの輪から引きずり戻された。
「まったく君は! 子供じゃないんだから!」
「あら、子供じゃないから踊るのよ」
「そうじゃない! この踊りが何なのかわかっているのか?」
レオナードはぷりぷり怒りながら、エリザベスの腕を引き、踊りの輪から遠ざけた。
「この踊りは、町の未婚のもの同士がパートナーを見つけるための踊りだぞ!」
エリザベスはきょとんとして、なるほどだから若い人たちばかりなのかと納得した。
しかしレオナードの怒りは収まらないらしく、くどくどと説教を続けた。
「俺がすぐに君を連れ出したからよかったものの、あのままだったら君の周りには求婚者が群がっていたぞ! 君のパートナーはこの俺なんだ。俺以外のパートナーを見つけてどうする!」
レオナードはこのままエリザベスを広間に近いところにいさせると危険と踏んだのか、どんどんと広間とは反対方向へ歩いて行った。
だが――
きゃあああああ―――!
突然、どこからか金切り声が聞こえてきて、二人は足を止めた。
エリザベスとレオナードは顔を見合わせ、声のする方へと向かってみる。それは、奇しくも先ほどエリザベスが踊っていた広間だった。
「何があった?」
レオナードは近くにいた人を捕まえて訊いた。
すると彼は震える手で広間を指して、こう答えた。
「人が、人が死んだんだ……」
エリザベスは息を呑んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます