6

 午後――


 エリザベスはさっそく邸の探検をすることにした。


 レオナードと一緒というところが多少引っかからないでもなかったが、エリザベス一人であれば邸の探検許可は下りないだろうし、何より迷子になりそうなほど広い邸だ。多少いけ好かなくとも、レオナードがそばにいる方が安心できる。


 オリバーによると、この邸は三階建てらしい。もっとも三階部分は使用人部屋や物置部屋として設計されているらしく、どの部屋も狭く天井が低いとのことだった。今も使用人たちの部屋として使われている部屋が多いとのことなので、彼らのプライバシーのためにも三階部分は探索カ所から外すこととした。


 外から見た邸はシンメトリーで、玄関ポーチを抜けるとすぐに大きな階段がある。一階と二階をつなぐ大階段のほかに、小さな怪談があと三カ所あるのだそうだ。そのうちの一つはエリザベスたちが使っている部屋の近くにあった。


 二階はエリザベスたちが使っている部屋の、大階段を挟んで反対の部屋が、オリバーの婚約者であるキャシーが使っている部屋らしい。


 オリバーは大階段の近くにある広い部屋を自室にしていて、セルジオ伯爵とその助手のフリップは、それぞれキャシーが使っている大階段を上って、キャシーの部屋に向かう途中にある部屋を使っているとのことだった。


 一階は居間のほかに、大きなパーティーが開けるような大広間、キッチンや食糧庫などがあるそうだが、そのほかの部屋は誰も使っておらず、みんなあいているらしい。


 レオナードとともに空き部屋を一つ一つ探索して回ったエリザベスだったが、どこも変わったところはなく、期待した隠し部屋もなさそうだった。


 祭りがはじまるまでまだ時間が残っていたため、そこでエリザベスたちは裏庭の方へ回ってみることにした。


 表の庭は、昨日のうちに見て回ったが、ただ広いだけで、特別変わったものは見つからなかったのだ。


 裏庭はあまり手入れがされていないようだった。広すぎて手が回らないのか、すぐ裏手が山なので、そもそも手入れをするつもりがないのかだろう。


 草だけは刈ってあるので歩くには困らなかったが、ぽつぽつと点在する木のほかに、物置小屋のような古びた小さな小屋があるくらいで、特に珍しいものもない。


 そのためエリザベスは、唯一存在する物置小屋に足を向けてみることにした。


 それは、小屋というよりは小さな家のようで、入り口の木戸には蔦らしき模様が描かれていた。小屋の入口には錆びた錠がかけられている。


「中に入れないのかしら?」


 好奇心旺盛なエリザベスは、錠のかかった扉をがたがたと揺らした。


「入ったところで、園芸用の土とか鍬とかが入っているんじゃないかな? 特に面白いものは出てこないと思うけど」


 エリザベスの隣でレオナードが夢のないことを言う。


 エリザベスはレオナードを見上げて口を尖らせた。


「もしかしたら古いお宝とか出てくるかもしれないじゃない!」


「君の想像力は称賛するけど、こんな誰でも壊せそうな小屋に財宝を隠す人間がいたら見てみたいね」


「夢がなさすぎるわ」


 エリザベスはつまらなさそうに言って、くるりと小屋の周りを一周してみた。


 そして、木屋の裏の窓が割れているのを発見し、目を輝かせる。


「ここから入れそうじゃない?」


「やめておけ。怪我をするのがおちだ」


「でも、人一人くらいなら通れそうだわ」


 どうしても中が気になるエリザベスが、割れた窓から薄暗い小屋の中を覗き込もうとしたその時だった。


「お二人さん、こんなところで何をなさってるんですかな?」


 突然背後から声をかけられて、エリザベスは飛び上がった。


 大人に悪戯が見つかった子供のように、心臓をドキドキさせながら振り返れば、そこにはセルジオ博士が立っていた。


「あー、びっくりした!」


 心臓の上をおさえてエリザベスが言えば、セルジオは目尻に皺を寄せて笑った。


「それはすまん事をしましたな、お嬢さん」


「いえ。そんなことより、博士こそこんなところでどうしたんですか?」


「わしは少し風にあたりにきたんだよ」


 セルジオ博士はそう答えると、オレンジ色に変わりつつある空を見上げた。


「今日は祭りがあるからな、ハールトン子爵が晩餐の時間をいつもより早めるとおっしゃっていた。お嬢さん方も、そろそろもどった方がよいでしょう」


 セルジオ博士はそう言って、自分も邸の方へ向かって歩き出した。


 どうやら散策もここまでのようだ。


 エリザベスは名残惜しそうに小屋を振り返りながら、レオナードにエスコートされて、邸へと戻ったのだった。

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