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エリザベスはドレスを着替えると、朝食も取らずに部屋から出て行った。
気恥ずかしいやら腹立たしいやらで、今はレオナードの顔を見ていたくなかったのだ。
しかし、することもないので庭を散策したのち、やがてそれにも飽きて、庭のアーモンドの木の近くにおかれているベンチに座ってぼーっ庭を眺めていた。
木には鳥が止まっているのか、時折さえずる声が聞こえてくる。
晩春とはいえ朝はまだ肌寒く、ショールを持ってくればよかったと、二の腕をさすっていた時だった。
「やあ、おはよう、ミス・エリザベス」
声をかけられて顔をあげれば、オリバーが小さく手を振りながらこちらへ歩いてくるのが見えた。
白いシャツにダークグレーのトラウザース姿の、くつろいだ様子だったが、その顔にはいささか疲れが見て取れた。
「おはようございます、オリバー様」
エリザベスは立ち上がって挨拶をしようとしたが、オリバーが手で制したので、おとなしく座ったままでいることにした。
やがて彼はエリザベスの隣に座すと、空を見上げて、「いい天気だね」と言った。その声には覇気がなく、やはり疲れているのだろうかとエリザベスが心配になると、彼は息を吐きだして微苦笑を浮かべた。
「今年は、残りの祭りは中止になるそうだよ」
オリバーの言葉にもエリザベスは驚かなかった。祭りは一週間続く習わしだそうだが、今年は死人が出たのだ。誰も続ける気にはならないだろう。
「キャリーがね、帰りたいと言うんだ。祭りがないのならこんな田舎にいる必要もないから、王都に戻りたいんだって」
「そうなんですか……」
エリザベスは気の強そうなキャシーの顔を思い出した。彼女ならそんなことを言いだしても不思議ではない。昨日だって、相当怒って帰ってきていた。
「君たちも、つまらないよね。帰りたいなら馬車を用意させるよ。僕も、少ししたら戻ろうと思う。……せっかくお招きしたのに申し訳ないことをしたね」
「そんな……、オリバー様のせいじゃないですし」
「ありがとう」
オリバーは微笑んでエリザベスを見やった。
「君は優しいね。そしてとても可愛らしい。レオが君を選んだのもわかる気がするな。……こんなことを言っているのを聞かれたりしたら、彼がまた嫉妬しそうだね」
「嫉妬なんて……、するはずないです」
するとオリバーはおやっと目を見張った。そして少し楽しそうな表情を作った。
「もしかして、気づいてな――」
しかし、オリバーは最後まで言うことはできなかった。
「オリバー様!」
遠くから大声でオリバーを呼ぶものがあったからだ。
オリバーは顔をあげ、こちらに向かって走ってくる執事の姿を見つけると驚いたように立ち上がった。
「デビット、どうしたんだ?」
血相を変えた執事の様子にはエリザベスも驚いた。彼はいつも厳めしい顔つきをしていて、その表情を変えたところなど見たことがなかったからだ。
デビットはオリバーのそばまで走ってくると、肩で息をしながらこう言った。
「橋が――、コードリー橋が、落ちたとのことです」
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