3
微かな鳥の鳴き声に目を開けたエリザベスは、ぼーっとした頭で目の前のダークブラウンのふわふわした感触の布とその間に除く肌色に首を傾げた。
そのよくわからない物体は、一定のリズムを刻むように、先ほどからか少しだけ盛り上がりまた下がっている。それからはジャスミンのような香りがほのかに香った。
(何かしら……?)
エリザベスは考えようとしたが、寝起きの頭で考えはまとまらなかった。
わかることは、暖かくていい匂いがして、なんだかとても気持ちがいいことくらいだ。
(まあいいわ、まだ眠いし……)
そうしてエリザベスが再び目を閉じようとしたとき、頭上から声が聞こえた。
「起きた?」
エリザベスは閉じかけていたぱちりと目を開けた。
驚いて顔をあげた彼女は、そこに王子様然とした顔の金髪の男を発見して息を呑む。
「な――」
信じられないほど近くにあるレオナードの顔にエリザベスの思考は停止しかけるが、自分の置かれている状況に気がつくと、思わず飛び起きた。
なんだかふわふわして気持ちがいいと思っていたダークブラウンのものの正体は彼が来ているガウンだったのだ。そして、その間から覗く肌色は彼の首から胸にかけてで――、どうやら抱きしめられて眠っていたらしいと理解したエリザベスは真っ赤になった。
(なんで? 昨日――)
自身を見下ろし、ドレスを着たままだと気がつくと、エリザベスの脳裏に昨日の記憶がよみがえってきた。
昨夜、町の祭りに出かけて、そこで死人が出たのだ。邸に戻ったエリザベスはひどく動転していて、彼に言われるままに一緒に眠った。
エリザベスはレオナードに視線を向けた。
彼がガウンを着ていると言うことは、どうやらエリザベスが眠ったあと、一度起きて着替えたのだろう。そしてまたエリザベスを抱きしめて眠ったということだ。
(なんてこと!)
しかしエリザベスも、昨日は混乱していた。文句を言うのはおかしい気がする。しかし納得もいかなくて、無言のままじっとレオナードを睨んでいると、彼は飄々と笑った。
「眠っているときの君は可愛かったよ。自分からすり寄って来てくれて、いつもそうだったらいいのに」
エリザベスはぴくっと口元をひきつらせた。しかし、まだ耐えた。
「俺が着替えるためにベッドを出たら、行かないでなんて言って。慌てて着替えて戻ったんだよ。感謝してほしいね」
「―――」
「今朝だって俺に見とれていたんだろう? いいんだよ、もっと素直になってくれても。なんなら今日から毎日抱きしめて眠ってあげようか」
ぶち。
なけなしの忍耐で耐えていたエリザベスの頭の中で、血管が一本、大きな音を立てて切れた。
エリザベスは近くに会った枕をむんずと掴むと、力いっぱいレオナードに投げつけた。
「ぶ!」
顔面に枕の直撃を受けて、レオナードがのけぞった隙に、エリザベスはさっさとベッドから落ちり立った。
「昨日のことは、一生の不覚よ! 誰があんたの腕の中で眠りたいもんですか!」
エリザベスはレオナードを怒鳴りつけると、ふんっと鼻息荒く浴室へ逃げ込んだのだった。
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