5

「なんということだ――」


 オリバーは額をおさえてうめいた。


 コードリー橋とは、アッピラード郊外の、このあたりの地域に入るときに通る橋である。


 周囲を山に囲まれたこの地域は、南に大きな川が流れていて、その川はコードリー川と呼ばれていた。


 その川をつなぐ橋――コードリー橋は、このあたりの地域と外の地域をつなぐ唯一の橋で、その橋が落ちてしまうと、オリバーの邸も、祭りのあった町もすっかり孤立してしまう。


「橋が落ちたって、大雨も降っていないのに、どうやって」


 確かにオリバーの言う通りだ。エリザベスも来るときに渡ったが、コードリー橋は丸太を組んで作られた大きな橋で、そう簡単には落ちそうもなかった。それこそ嵐のような大雨が来ない限り、橋が崩れるなんて考えられない。


 するとデビットは言いにくそうに視線を落とした。


「それが――、昨夜、突然の火の手が上がり、燃え落ちたとのことです」


「燃え落ちただって!?」


 オリバーは愕然と目を見開いた。


「はい。原因はまだわからないとのことですが――、橋の修復には、結構な時間がかかるとのことでした」


「なんということだ……」


 オリバーは繰り返して、疲れたように顔を覆った。


「帰れないなんて……、キャリーがヒステリーを起こさないといいが……」


 エリザベスはオリバーに深く同情した。キャリーのことをよく知らないエリザベスでも、彼女が怒り狂うだろうことはゆうに想像できた。


「それからもう一つ――」


 デビットはちらっとエリザベスに視線を向けると、まるで彼女にはきかせたくない話の湯に、オリバーの耳元にささやいた。


 オリバーはそれを聞くと顔を青くして、天を仰いだ。


「……最悪だよ」


 彼の表情に浮かんだ苦悩を見て、エリザベスは何かよくないことが起こったのだと悟った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る