6

「オリバーと何をしていたんだ?」


 部屋に戻ると、待ち構えていたように、仁王立ちのレオナードにそう問い詰められた。


「窓から見ていたんだ。オリバーと話し込んでいたみたいだね」


「あんたに関係ないでしょ」


「関係は大ありだ。君は俺のものだと言っただろう」


「わたしも何度も言ったわよ。わたしはあんたのものではないわ」


 エリザベスはレオナードの脇を通り抜けると、ソファに体を沈めた。


 レオナードは苛々した様子でエリザベスの向かいに腰を下ろした。


「俺はオリバーに惚れるなと言ったはずだ」


 しつこい。


 エリザベスは嫌になって、大きく息を吐きだした。


「オリバー様に惚れていないし、たまたまベンチに座っていたらオリバー様がいらっしゃっただけよ。変な勘繰りはよして。それに、すぐにデビットさんが来たもの」


「デビットは、君とオリバーが親密そうだから焦ってやって来たんじゃないのか?」


「そんなわけないでしょ!」


 エリザベスはあきれて、デビットがやってきた理由を説明した。


 レオナードは目を見開いた。


「コードリー橋が落ちただって!?」


「そうよ。燃えたんですって」


「ばかな。あんなところに火元なんてあるはずがないだろう。せいぜい考えられるのは雷が落ちたかだが――、昨夜雷の音なんて聞こえなかった」


「だから、原因不明なんですってよ」


「……なんだってまた、こんな時なんだ」


 レオナードは考え込むように視線を落とした。


 エリザベスは急にお腹がすいてきた。昼間でまだ時間があるので、リゼットに頼んで遅い朝食用にパンでも持ってきてもらおうと呼び鈴を鳴らす。


 リゼットにクロワッサンをもらって、紅茶と一緒に食べていたとき、コンコンと扉が叩かれた。


 レオナードが立ち上がり扉を開けると、そこには困惑した表情を浮かべたデビットが立っていた。


「レオナード様、その、お客様がいらしていますが」


「客? 俺に?」


 レオナードは不思議そうに首をひねった。


「いったい誰だい?」


 するとデビットは言いにくそうに声を落とした。


「それが、ボナー警部と名乗られる方でして……」


「ボナー警部だって?」


「うぐっ!」


 エリザベスは食べかけのクロワッサンを思わずのどに詰まらせた。

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