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「警部って、あんた何かやらかしたの?」


 デビットが部屋から出て行くと、エリザベスはレオナードに疑わしい目を向けた。


「そんなはずないだろう。傷つくな……」


 レオナードは肩をすくめると、シャツの上にジャケットを羽織りながら「だが、用件に心当たりならある」と答える。


「ボナー警部とはちょっとした知り合いなんだ。彼がここに来ていたなんて驚いたけどね」


「警部と知り合い?」


「近衛隊に所属していた時にちょっとね」


「ふぅん」


 エリザベスは食べかけていたクロワッサンを胃に押し込めると、じっとレオナードを見つめた。警部が来たということは、きっと何かがあったのだ。事件だろうか。コードリー橋が落ちたことに関係する? エリザベスの中で好奇心がむくむくと沸き上がった。


 コードリー橋が落ちたと言うことは、しばらく王都には帰れない。ほかにすることがないのならば、少しでも面白そうな話は聞いてみたかった。


「ねえ――」


「言っておくけど、ボナー警部は四十過ぎのおじさんだよ。妻子もいる」


「――何を言っているの?」


「だから――、いや、さすがにどうかしているな」


 レオナードは頭をかいて、はあ、と息を吐きだした。


「一緒に行きたいの?」


 エリザベスはぱっと顔を輝かせた。その表情で答えを理解したレオナードは、彼女に手を差し出した。


「おとなしくしていると約束するならいいよ」


「もちろん!」


「……普段から、それだけ素直ならいいのに」


「何か言った?」


「いや、何も」


 レオナードはエリザベスの手を取ると、彼女をエスコートして一階の居間に向かった。


 居間にはボナー警部とオリバー、そしてデビットの姿があった。


 ボナー警部は頑健そうな体つきに、鋭い鷹のような目をした男だった。顔は四角く、太い眉が意志の強さを表しているようにも見える。


 ボナー警部は立ち上がり、レオナードに向かって一礼した。


「お久しぶりですな、大尉たいい


「もう引退したので大尉ではありませんよ。あなたもお元気そうで何よりです、警部」


 エリザベスは固い握手を交わす二人を見て、不思議そうに首を傾げた。

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