5
次の日、エリザベスが目を覚ますと、レオナードはソファで優雅に紅茶を飲んでいた。
「おはよう、リジー。朝食は食べられそうかな?」
エリザベスは寝起きの顔が見られたことが恥ずかしかったので、ぷいとそっぽを向くと、「食べるわ」と小さく答えて顔を洗いに浴室へ向かった。そこには顔を洗う用の水が用意されていた。おそらくリゼットが用意してくれたのだろう。
エリザベスが顔を洗って戻ると、テーブルの上には朝食が用意されていた。
三種類のパンと、コーンスープ。オムレツとサラダに、フルーツ。飲み物はフレッシュオレンジジュースと、紅茶がある。
レオナードの邸でもそうだったが、貴族はみんな朝からこんなに豪勢なのだろうか。
エリザベスは、父のそばで暮らしていた時も修道院で暮らしていた時も、朝はパンとミルクだけだった。
「ほら、スープは温かいうちに飲んだ方が美味しいよ」
早くおいでと手招かれて、エリザベスはコーンスープの甘い香りに誘われるようにふらふらと席についた。
イエロークリーム色のスープを一口すすると、甘くて深い味にほっと息をつく。
「今日は何をするの? 夜は祭りがあるけど」
「決めてないわ」
エリザベスはオムレツを口に運びながら答える。こちらもとろっと柔らかく、バターのコクと塩加減が絶妙だ。
エリザベスが食事に夢中になっていると、レオナードはクロワッサンをちぎりながら言った。
「オリバーが退屈ならこの邸を見て回っていいと言っているけど、どうする?」
エリザベスは顔をあげた。
古いお城のような邸だ。見て回るだけでも半日は楽しめそうである。
(……隠し部屋とかあるのかしら?)
エリザベスが十五歳からすごした女子修道院の建物も古かった。シスターに見つかれば怒られたが、エリザベスは暇を見つけては修道院の中を探検して回るのが好きだったのだ。残念ながら修道院には隠し部屋はなかったが、ここはどうだろう。
エリザベスはちょっとわくわくした。
「面白そうね」
エリザベスが乗ってくるとは思わなかったのか、レオナードは意外そうに目を丸くした。
「じゃあ、午後から見て回る?」
「ええ、いいわ」
エリザベスは二つ返事で了承して、サラダを口に入れた。
レオナードはそんなエリザベスを見つめて、ぼそりとつぶやいた。
「君は本当に、変わった子だな……」
レオナードの知る女性は誰も、邸の探検に興味なんて示さない。
しかしレオナードのつぶやきが耳に届かなかったエリザベスは、目の前の朝食を平らげることに夢中になっていた。
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