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 レオナードは猫かぶりも甚だしかった。


 彼のメッキはエリザベスが荷物をまとめて彼の邸に移ったその日からはがれはじめ――もとより、本性を隠す気もなかったようだ――、今ではすっかり、別人かと思うような変わりようだった。


 しかし、どれほど腹立たしくとも、アダムの治療費を持ち出されるとエリザベスは逃げるわけにもいかないのだ。


 アダムがどれほど深刻な事態なのかは知らないが――顔を見る限りぴんぴんしていたが――、医者が入院が必要だと言うのだからそれなりに悪いのだろう。


 レオナードに内緒で、医者に父を退院させて地元の医者に診せたいのだが可能かと聞いたところ、猛反対を受けてしまった。あなたは実の父親を殺す気ですかとまですごい煙幕で言われると、エリザベスの心の中にひどい罪悪感が生まれた。自分の利害を優先して父親を見殺しにするつもりだったのか、と。


 そのため、エリザベスはレオナードが個人で所有している王都の邸で生活する羽目に陥ったのだ。


 エリザベスはメイドが煎れてくれた紅茶を飲みながら、そっと自分の体を見下ろした。


 ガーネットのような赤色のドレス。淡い茶色にほんのり赤を落としたような色に髪は編み込まれて一つにまとめられている。髪飾りは真珠と金でできていて、春先とはいえ肌寒いからと用意された白いショールは光沢のあるシルクで編まれていた。


 これらはすべて、レオナードが用意したものだ。


 レオナードは、エリザベスを邸に連れて帰るや否や、彼女の頭のてっぺんから足の先まで、貴族令嬢仕様に変えてしまったのだ。


 もちろん、エリザベスは文句を言った。しかし二週間がたった今、どれほど彼に苦情を言おうと暖簾に袖推しだと言うことを理解したし、ほかに着るものもないのだから、おとなしく彼の用意したものに袖を通すしかないと諦めている。


「今度、君の瞳と同じ色のサファイヤのブローチを贈るよ」


 甘いマスクでこんなことを言われれば、世の女性は顔を真っ赤に染めて喜ぶのかもしれないが、残念ながらエリザベスは当てはまらない。


 心底迷惑そうな顔をして、しかし断ったところで無駄なので、「好きにすれば」と横を向いた。


(ああもう! お父さんはあとどのくらいの入院が必要なのかしら!)


 エリザベスは気の長い方ではない。


 そろそろ、堪忍袋の緒が切れそうだった。

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