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「ああ――……、あんたって、なんていうか、馬鹿?」


 エリザベスがレオナードにはじめて会った日。エリザベスのこの発言のあと、慌てたアダムによって、この話はまた日を改めてということになった。


 レオナードは少し不服そうだったが、それでも笑みを浮かべて了承して、また来ますと告げて去っていった。


 あの日エリザベスは「また」という日は二度来ないだろうと思っていたし、もちろん二度と来させるつもりもなかった。


 ぶつぶつと小言を言う父を無視して自室に入ると、さてこれからどうするかと考えた。


 修道院から出た身でもう一度そこに戻るわけにもいかない。


 結婚する気もさらさらないが、少々口うるさくともたった一人の父親だ、見捨ててどこかに逃げるわけにもいかない。


 結婚を断ろうにも、父がその気なのでこちらからどうこうできそうもなく、レオナードに愛想をつかされるのが手っ取り早いのだが、今日見る限り一筋縄ではいきそうもなかった。


(それにしても、いけ好かないわね……)


 父から、どうやら自分の子供に爵位の継承権があることは聞かされた。その爵位につられてのこのこと求婚してきたのが気に入らない。


 お貴族様たちの結婚に感情は必要ないのかもしれないが、その中にエリザベスを入れないでほしかった。


 エリザベスは爵位なんてどうでもいいし、派手な生活がしたいとも思っていないのだ。


 しかし、死別した後もいまだに母のことが大好きな父は、母の残したものを手放すとは思えない。


「どうしたもんかしらねー」


 エリザベスは硬いベッドの上にごろんと寝転がる。


 もちろんエリザベスだった年頃の女の子だ。いつかは結婚したいと思っている。しかしそれは、好ましいと思った相手とがいい。


「とにかく、あいつに嫌われるしかないわね」


 もはやその手しかなさそうだ。エリザベス自身にはさほども興味が無さそうなあの様子では、嫌われるのもなかなか骨は折れそうだが仕方がない。


 そしてエリザベスは、どうやってレオナードに嫌われようかと作戦を立てた。

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