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 レオナード・フィッツバーグは金髪碧眼の、まあいわゆる王子様的な外見の青年である。


 近衛隊に従事していたというくらいだから背は高くて引き締まった体つきをしている。それでいて筋肉質でむさくるしいと言うことはなく、言ってしまえば、女子供がキャーキャーと騒ぎそうな甘い顔立ちをしていた。


 実際、とてもモテるのだろう。


 彼と並んで歩くと老若問わず多くの女が振り返る。


 穏やかで低姿勢、誰かにぶつかられても、ぶつかった相手を大丈夫ですかと気遣う心優しい青年――。それがレオナード・フィッツバーグの「表」の顔だった。


「あー、疲れた。リジー、お茶ちょうだいー」


「自分で入れるかメイドに頼めば?」


 邸に戻るなりリビングのソファに体を沈めてレオナードが言えば、エリザベスはツンと顎をそらして答える。


「けち。俺は可愛い婚約者にお茶を煎れほしいんだけど」


「おことわりよ、おあいにく様。それにわたしはあんたの『婚約者』じゃないわよ!」


「じきに結婚したいと言わせて見せるさ」


「一生言わないから、さっさとわたしを家に帰してちょうだい!」


「うーん、それは無理な相談だ。だって、君のお父さんの医療費、だれが払うのかな?」


 ふふんと鼻で笑うレオナードを、エリザベスは親の仇のごとく睨みつける。


 この男、あった最初の好青年はどこへやら、ずいぶんと厭味な男なのだ。


 穏やかでない、低姿勢でない、優しくないし、口は悪い! 結果、この男の長所で残ったものは顔だけだが、残念ながらエリザベスは「美形」にさほどの興味もない。よって、彼に惹かれるところは何一つないのだ。


「おっと、忘れてもらっては困るよ。家柄と頭脳と身体能力も俺の長所だ」


 エリザベスの表情から何を考えているのか読んだらしいレオナードが付け加えると、エリザベスはチッと舌打ちした。


 腹立たしい。


(何でわたしがこんな男と一緒に暮らさないといけないのよ!)


 エリザベスは地団太を踏みながら、つい二週間前のことを思い出した。

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