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エリザベスは不満だった。
大いに不満だった。
オリバーに案内された部屋は二階の広い角部屋で、日当たりもよく、家具はアンティーク調のダークブラウンに統一されており、壁紙は淡いクリーム色。
そのため、部屋には何の申し分もない。
エリザベスの不満は、もっと別のことだった。
「なんであんたと同じ部屋なのよ!」
エリザベスはオリバーと執事が去ると、窓から庭を見下ろしているレオナードに食って掛かった。
レオナードは心外だと言わんばかりに振り返った。
「俺が決めたことじゃないよ。オリバーが決めたことだ。それに、俺と君は結婚するんだから、婚約者と同室でも何ら問題ないじゃないか」
「大ありよ! そもそも婚約なんてしていないし結婚するつもりもないわ! わたしとあんたは赤の他人! 他人と同室なんておかしいじゃない!」
「赤の他人はひどいな……。残念だけどオリバーはそう思っていないのだから仕方がないね。それとも何? 俺たちは客人なのに、部屋割りについて文句を言うつもり? それはずいぶん
「う……」
「この部屋だってきっと邸の中でも相当いい部屋だよ。オリバーは気を遣ってくれたんだと思うな。なのに、その気遣いを無碍にするの?」
「うう……」
「どうしても君が嫌だと言うならオリバーに言って別の部屋を用意してもらうけど、オリバー、傷つくだろうなぁ……」
エリザベスの脳裏に、人のよさそうなハールトン子爵の顔が横切った。オリバーはレオナードと違い、とってもいい人そうだ。そんな彼を傷つけるのは――、エリザベスの良心がチクチクと痛んで、彼女はそっと胸をおさえた。
「オリバーに言ってほしい?」
エリザベスはあきらめた。
「あーもう! わかったわよ! 同じ部屋でいいわよ! その代わり、あんたはソファで寝てよね!」
「どうしてそんなひどいことを言うの? 見てよこのキングサイズのベッド。二人で寝ても有り余る面積があるじゃないか」
「そういう問題じゃないわよ!」
「そういう問題だよ」
エリザベスはおよそ五分ほど、レオナードと「ソファ」だの「ベッド」だのと押し問答を続けたが、最終的に根負けして、部屋の中からクッションをかき集めて、ベッドを二分割に区切ることにした。
「いい? あんたはそっち側、わたしはこっち側。このバリケードを突破してこっちに来るんじゃないわよ!」
レオナードは大いに不満そうだったが、渋々頷いた。
「オッケー、ユア・マジェスティ。君の気が済むようにしたまえよ」
エリザベスはこれからの一週間を思い、頭痛がしそうだった。
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