2
リゼットが朝食を運んできてくれたあと、入れ替わるようにレオナードが部屋に戻って来た。
髪が濡れているところを見ると、汗を流すために湯を使ったようだ。着ていた服も先ほどとは違い、光沢のある紺色のシャツを羽織っていた。
「おはよう、リジー。待たせたかな。先に食べてくれてもよかったんだよ?」
「おはよう。さっき食事が来たところだもの。待っていたわけじゃないわ」
本当は一緒に食べようと思っていたのに、こういう可愛くないことを言ってしまう自分の口がたまに恨めしい。
レオナードはそうかと笑いながら、エリザベスの向かいの席に腰をおろした。
「さっき俺を見ていたね」
「あんたを見ていたんじゃなくて、二人を見ていたのよ」
「一緒だよ。それで、手合わせが珍しかった?」
「まあ、ね」
エリザベスはグラスにオレンジジュースを注ぎながら答えた。レオナードもほしいと言うので、彼のグラスにも注いでやる。
「あんな太い木の棒で打ち合って、怪我とかしないの?」
「そりゃ、たまには怪我もするけど、慣れているからね。もしかして心配してくれているのか?」
「……別に」
「安心していい。今日は怪我なんてしていないよ」
「だから、別に心配なんて……」
そう返しながらもエリザベスはホッとした。あれだけ重そうな木の棒を振り回しているのだ、軽く当たっただけでも打ち身になるだろう。窓から見ていた限りでは怪我をしたふうではないのはわかっていたが、やはり直接聞くと安心する。
「リジー、今日は何をするの?」
エリザベスは少し考えた、
「そうね……。青騎士物語もまだ途中だから、それも読みたいけど……、ほかに何をしようかしら」
新しい本を探してもいいが、ほかに違うこともしてみたい気がする。しかし、ほかに何ができるだろう。このあたりを散策するにも山しかないし、町に出るのは、祭りの夜のことを思い出しそうでまだ少し怖い。
エリザベスは答えが出ないので、かわりにレオナードに訊ねてみた。
「あんたはなにをするの?」
レオナードはパンをちぎりながら答えた。
「俺はほら、昨日の古代ラグナ文字が書かれた紙があっただろ? あれが気になるから、図書室で調べてみようと考えているけど。ほかにすることもないからね」
エリザベスは線で描かれた星とその上の見たことのない文字を思い出した。言われていればあれが何なのか非常に気になってくる。エリザベスはレオナードと違い、古代何とか文字に対する学はないが、彼がそばにいればいろいろ面白いことがわかりそうだ。
エリザベスは身を乗り出すと、わくわくしながら言った。
「それ、わたしも手伝ってあげるわ!」
実際エリザベスでは何の手伝いにもならないだろうが、彼女はそう言って楽しそうに笑った。
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