6
エリザベスはうきうきと「青騎士物語」の本を開いた。
ベッドの上にうつぶせに寝転がって本を開くエリザベスに、レオナードは苦笑して行儀が悪いよと言っていたが、エリザベスの耳に届いていないとわかると諦めたらしい。
いつの間にか彼はエリザベスのすぐ隣に寝そべっていたが、本に夢中になっている彼女は気がつかなかった。
ベッドの上のバリケードは破壊されたままだが、それすらも気づいていないようである。
子供みたいだな――、そんなことをレオナードが思っているとは露知らず、エリザベスは本のページをめくった。
レオナードが言う通り、「青騎士物語」は読みやすい本だった。
王女様と青騎士が、すれ違ったり近づいたり、また些細なことで誤解してしまったりと物語が進んでいくうちにエリザベスはハラハラした。
ページをめくるたびに表情を変えるエリザベスに、レオナードは笑った。
「面白い?」
「うん」
エリザベスは本から目を離さずに答えた。
「ふぅん。どこまで読んだの?」
仰向けに寝そべっていたレオナードは体の向きを変えると、エリザベスの手元を覗き込む。
「ああ、いいところまで読んだね。このあと、青騎士が月のきれいな夜に――」
「もう! 言っちゃダメ!」
エリザベスは顔をあげて、キッとレオナードを睨みつけた。
レオナードはその時、エリザベスの肩越しに本を覗き込んでいたので、振り返ったエリザベスの顔はハッとするほど近くにあって、息のかかりそうなほどの距離に彼は思わず目を見開いたが、エリザベスは本に夢中すぎて何とも思わなかったらしい。
何事もなかったかのようにエリザベスが本に視線を戻すのが少し悔しかったレオナードは、そっと彼女の肩を抱き寄せてみた。
それでも、いつもは怒るエリザベスが、何も言わずに本を読んでいる。
「……俺は本より下か……」
レオナードはムッとしたようにつぶやいたが、エリザベスは聞こえなかった。とにかく本の続きが気になって仕方がなかったのだ。
そこでレオナードは、心おきなく撫でてみたいと思っていた彼女の髪に手を伸ばした。
つややかでまっすぐな彼女のブラウンの髪は、触れるとさらさらと指の間から零れ落ちて、それでいて絹のようにしっとりしている。癖になりそうな手触りに、レオナードは楽しくなった。
調子に乗って、彼女の髪を撫でたり梳いたり指に絡めたりして遊んでみる。本に夢中の彼女は何も言わないので、やりたい放題だ。
鼻先を近づけてみると、予想通り薔薇の香油を使っているのか、ほのかにいい香りがする。
レオナードはたまらなくなって、彼女をぎゅうっと力いっぱい抱きしめてみたくなった。
そして、その願望のまま引き寄せようとしたその時。
「あ!」
突然エリザベスが声をあげて、レオナードはびくっとした。悪戯に気がつかれたのだろうか。どきどきしていると、顔をあげたエリザベスが、一枚の紙を掴んでレオナードに差し出した。
「見て! 本の間に挟んであったの。何かしら?」
きらきらと好奇心に輝くサファイヤのような瞳は、レオナードが今まで見たどの宝石よりも魅力的に映った。
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