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 本を読むため、レオナードと隣り合わせに位置に椅子を移動したエリザベスは、彼の手元を覗き込んだ。


 しかし、文字は読めたが、書いていることはいまいちわからなかった。


 仕方なく、読み進めたレオナードが説明してくれることを待つことにして、エリザベスはティーポットからカップへ紅茶を注いだ。


「お砂糖とミルクいる?」


「いや、そのままでいいよ」


 エリザベスはわかったと頷いて、レオナードが本を読むのに邪魔にならないところへティーカップをおいた。


 レオナードはこういった論書のようなものを読みなれているのか、なかなか早いペースでページを繰っていた。


 エリザベスは自分の紅茶にミルクを落としてかき混ぜながら、彼の横顔を盗み見た。


 本を読むレオナードの横顔はいつになく真剣だった。微かに寄った眉間に、時折すがめられる目、引き結ばれた口元は、ちょっとだけ凛々しいと思ってしまう。


(まあ、確かに……、見た目はかっこいいかもね)


 もともと整った顔だということはわかっていたが、いつも飄々としていてどこか胡散臭く感じていたため、今まで何とも思わなかった。しかし、この瞬間の表情は嫌いではないかもしれない。


「なるほどね。リジー、君はお手柄だったかもしれないよ」


 五分の一ほど本を読み進めたレオナードは顔をあげると、エリザベスに微笑んだ。


「もっと時間がかかるかと思っていたけど、この本で意味がわかるかもしれない」


「そうなの?」


「ああ。リジーが見つけたあの紙は、闇の宗教に関係していそうだ。どうやら闇の宗教では、密かに、古代ラグナ文字が使われていたらしいね」


「じゃあ、あの変な紙の意味がわかるの?」


 エリザベスはわくわくした。実はお宝の地図とかだったらどうしよう?


「まあ、あれが何なのか読み解くにはもう少しかかりそうだけど、この本を読み終われば大体のことはわかりそうだ」


「本当!?」


 嬉しそうなエリザベスに、レオナードは微笑んだ。


「これでしばらく退屈しないかもしれないね」


 もちろん、意味がわかったところで、たいしたものではないかもしれない。しかし楽しそうなエリザベスの気分に水を差すのは可哀そうだった。


「リジーは、あの紙は何だと思う?」


「わたし? きっと何かの場所を示しているものだと思うわ! そして、そこには何か面白いものがあるのよ!」


「なるほど、可能性はゼロではないね」


 もっとも、レオナードやエリザベスが簡単に理解できるようなものでは、たとえ何かのありかを示す暗号であったとしても、すでに誰かに発見されている可能性の方が高いのだが、レオナードは黙っておいた。


 楽しそうなエリザベスを見ているのは気分がいい。彼女はレオナードには微笑まないが、わくわくした表情を浮かべているときは、実にいい笑顔を浮かべるのだ。


 俺にもそのくらい興味を示してくれればいいのに――、レオナードはそう思ったが、口には出さなかった。


 エリザベスは本の続きが気になるのか、しきりにレオナードの手元を気にしている。


 レオナードは苦笑して、続きを読もうと視線を落とした――、その時。


「もういい加減にして!」


 ヒステリックな叫び声と何かの割れるような音が聞こえてきて、レオナードとエリザベスは顔を見合わせた。

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