第3話
「できれば警察沙汰にはしたくなくて……」
我ながら情けない声だった。ストーカー行為を規制する法律があるのは知っている。でもそれだけで悠一を止められるのだろうか。
警察がどれくらい動いてくれるものなのかわからないというのもある。悠一に手を上げられたことについて、私は被害届も出していなければ相談もしていなかった。
「甘い……ですかね?」
恐る恐る尋ねてみる。松本さんはしばらく考え込んでいる様子だったが、ふっと顔を上げて言った。
「いいえ。彼自身に見切りをつけてもらう方がいいと思いますよ。可能なら」
可能なら。わざわざそう言い足したということは、松本さん自身は可能じゃないと思っているということなのだろうか。
「でもその前に」
そう言って、松本さんはまっすぐに私を見た。
「過去の交際相手とのことだと思って詮索しませんでしたが、こうなった以上僕も詳しいいきさつを知っておいた方がいいのでは、と思うんですが……」
(あ……)
言われてみれば、松本さんはあのカフェで私と悠一の会話を聴いていただけで、私の口からは何も説明していなかった。
私はうなずき、頭の中で整理しながら説明を始めた。
「彼とは三年半くらい付き合っていたんですが、突然別れてくれって言われました」
松本さんは黙ってうなずき、先を促した。
私は息を吸い込み話を続ける。
「それでその理由が、ずっと片想いしていた幼馴染に告白したいから、だったんです。それで、もしフラれたらまた付き合ってほしい、と」
そう、いわば保険にされたのだ。もちろん、今ここでそんな表現は使わないけれど。
「でも結局幼馴染にはフラれたみたいで、私たちはよりを戻すことになって」
言いながら、ここが最大の過ちだったと私は思う。
同性の友達相手に説明していたとしたら、間違いなくここで「えーっ!?」と声が上がっているはずだ。
「それからしばらくして、私髪を切ったんですけど、それに対して彼が『勝手に切った』と責め立ててきたのに我慢できなくなって、その場で別れました」
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