最終話
(ほらやっぱり、最後の最後までだめだった!)
私はそれまでとは打って変わって晴れやかな気分で歩道を歩いた。今にもスキップしだしそうな自分に苦笑する。
「香織」がどんな人かは本当に知らないままだし、これから知ることもきっとないけれど、彼女にちゃんと男を見る目があったことに感謝したい。
悠一は最初から最後まで、つまり別れを切り出した時から、私が別れを承諾した時、そして復縁に応じた時に至るまで、一度も私に謝らなかった。感謝もしなかった。お願いこそされたものの、感謝の言葉も謝罪の言葉も、私は一切聞いていない。
もちろん、それを求めていたわけじゃない。けれど、それはあってしかるべきものなのだ。ないということは、私は悠一の要求を全てのむことが当たり前ということ。感謝も謝罪も存在しないくらい、当然のことだということ。
(なめられるにもほどがあるよね……)
それでも私は、今、不幸だとは思わない。
私は自分の顔にほんのりと笑みが浮かぶのを感じた。ここまでの仕打ちを受けて、おとなしく黙っている私じゃない。だってものをもらったら、お礼を添えてお返しするのが礼儀でしょ?
だから私は、悠一がしたのと全く同じことを、私が受けたのよりはるかに強烈なダメージを与える形で、悠一に返そうと思う。
でもそれは今じゃない。もっと先の話。私が復縁という形で仕込んだ毒が、もっと浸透してからの話。悠一が理解していようといまいと、私が悠一に許したことは、悠一も私に許さなければならない。それこそが、悠一への私からのお返しであり、一つの呪いなのだ。
だから悠一が本当に「俺には由佳しかいない」という状態になったとき、私の「お返し」は始まる。
そう、だから動き出すのは──まだ、今じゃない。
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