第7話

 悠一からの連絡でスマホが震えたのは、あれから半月ほどたったある日のことだった。その間悠一から連絡が来ることはなかったし、私から連絡することもなかった。

 通知に表示された名前を見て、ついに来たか、と思う。だんだんと、心臓が立てる不穏な音が大きくなっていった。


 いつものカフェに行き店内をざっと見渡すと、もう来ていた悠一が気づいて合図してくれた。私はカウンターでカフェラテを注文し、トレーに載せて悠一のいる席まで運ぶ。

「ごめんね、待った?」

 カフェラテを置いてそう言うと、悠一はこちらを見上げて口をもごもごさせた。

「いや……」

 私はコートを背もたれにかけて席に着く。それを黙ってみていた悠一は、ふーっと長い息をついて話し始めた。

「あの、話したいことがあるって言ってたやつだけど……実はさ」

 あからさまにではないものの、こちらの反応をうかがっているのが感じられる。私は努めて穏やかな表情で聞いた。

「やっぱり俺、由佳と……なんていうか、より戻したいんだ」

 いくぶん言いにくそうに、けれどはっきりと悠一は言った。やっぱりね、と思いながら私は悠一の顔を見つめる。

 結局、「香織」にはフラれたってことなのだ。プライドからか、それを直接名言する気はないようだけれど。言ったも同然だったとしても、言わないことに意味があるのだろう。こちらを見つめながらも、どこか落ち着きのない瞳に不安が見え隠れしている。

 私は十分すぎるくらいに間をあけた。ほんの少しでも長く、不安に苦しめばいいと思ったから。

 そして不意に、私は悠一ににっこりと笑いかけた。

「……おかえり、悠一」

 声に出せばほんの一瞬だった。私はこの言葉を、笑顔を崩すことなく言い切った。

 これを聞いた悠一はどんな顔をするのだろう、とちらりと思いながら。

「はああああ……よかったー……」

 そう言って悠一はテーブルに突っ伏した。またしても目の前に現れた悠一のつむじに、私は冷たい視線を突き刺す。

「由佳にまでフラれたら俺どうしようかと思った……」

 そう言って悠一が顔を上げる。私は無言で、困ったような笑顔を作った。

「……香織さんのことは残念だったけど、またこれからよろしくね」

 そう言って微笑む。悠一は一瞬驚いたような顔をしたけれど、すぐにごまかすように笑った。

「いやほんと、やっぱ俺には由佳しかいないわ」

 変にニヤニヤしているせいでゆがんだ悠一の顔を、私は見つめる。お前が今言うべき台詞はそれじゃないだろ、と内心毒づきながら。

 しかしどうやら続きはないようなので、私はそっと立ち上がった。

「え、もう行くの?」

 悠一が驚いたように声を上げたが、私は手を止めずに返事をする。

「このあと妹の誕生日ケーキ受け取りに行かないといけないから。ごめんね! また連絡して!」

 それだけ言うと、私は自分の分のトレーだけ持って返却口に寄り、そのまま店を後にした。

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