第6話

「……やっぱりそうなんだな」

 そう言って大げさにため息をついた。こうなると手が付けられない。一度自分が正しいと思い込んだことは、動かぬ証拠で徹底的に覆されない限り、彼の中で「真実」になってしまうことを、私は経験から知っていた。

(ああ、めんどくさ……)

 もういろいろと投げやりな気分になってくる。けれど、無実の罪で責められるのはあまりに理不尽だった。それでなくとも、気に入っている髪型から何から全否定されて、私は今、多分相当頭にきている。

「浮気とか、そういうんじゃないから。……悠一の、香織さんと同じ感じ」

 とっさに口をついて出た嘘だったけれど、悠一の肩がピクっと反応したのを、私は見逃さなかった。悠一がようやくこちらに顔を向ける。


 機が熟していたとはいえない。本当は、完璧な計画を練るつもりだった。


 他の女に告白したいからと私を捨て、フラれた時の保険に私をキープし、そして案の定復縁を求めて戻ってきた。そんな悠一に、私と同じ経験を、そしてそれ以上の絶望を、味わってもらうための計画。それはまだあいまいで、不十分なままだった。

(だけど──…)

 もう今この瞬間に、すべてが私の中で限界を迎えてしまったのだ。

「別れてほしいな──私も、告白したい人がいるから」


「……え、なにそれ。本気で言ってんの?」

 意外と落ち着いた声だったけれど、動揺と怒りを抑えきれてはいない。

「冗談でこんなこと言わない。……でも悠一ならわかってくれると思ったから」

 私は沈痛な表情を作って言った。もちろん、告白したい人なんていない。でももう、あらゆることが面倒だったし、悠一とやりあう元気もなかった。とにかく早く、この状況から逃れたい、それだけだった。

 私はそれとなく悠一の反応をうかがう。たとえどんなに許せないと思ったとしても、悠一には私を一方的に責めることはできないはずだ──自分も過去に同じ要求を突き付けたことがあるのだから。

 悠一は、私に仕返しをされていると感じるだろうか。それとも仕返しだとすら思わずに、ただ私のわがままだと思うのだろうか。


 悠一はしばらくの間、空になったコーヒーカップをにらみつけていた。そしておもむろに立ち上がったかと思うと、私を見下ろしてこう言ったのだ。

「……好きにすればいいんじゃんないの」

 そしてそのまま店を出ていった。私は残されたコーヒーカップを見つめる。

「……自分が飲んだ分くらい片付けなさいよ」

 私は自分だけに聞こえるような声で、ため息交じりに呟いた。

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