第6話
土曜日の朝は、からりと晴れていた。私は散歩がてら図書館に行くことにする。本への出費が、自分で決めている「ひと月に本にかけてもいい金額」に達してしまったため、手ごろな本を探して借りるためだ。
自転車に乗ってもいいのだけれど、図書館は歩いても二十分くらいで着ける距離にあった。私は適当な服に着替え、家を出た。
図書館の入口はなぜか不透明な自動ドアで、そのため鉢合わせ事故が起こるのだろう、扉に「退館する人に注意!」と大きな字の張り紙がしてある(内側には「来館する人に注意!」と書いてある)。
注意しろと言われても、センサーが反応する位置まで近づいてドアを開けてみなければわからないのだから、あまり注意のしようがない。「駆け込み禁止!」くらいの意味なのだと思う。
私はそのままドアに近づいた。と、案の定向こう側にも人がいて、お互い半ば反射的に「あ、すいません」と口にする。ぶつかったりはしていないので、横にずれてそのまますれ違った。
「──あっ、ちょっと待って!」
そんな声がしたので反射的に振り返る。声の主はさっきすれ違った人だった。どうやら呼び止められたらしい。何か落としでもしただろうか、と首を傾げて相手を見た瞬間、私は自分の目を疑った。
「──え」
その人は私を改めて見つめ、「やっぱり」と小さくつぶやいた。
「──ビニール傘嫌いの人ですよね」
私は思わず固まってしまった。目の前にいるのは間違いなく「あの人」だった。休日らしいラフな格好をしていたけれど、それで減じる魅力ではなかったから。
が、私はそうはいかない。今日なんてノーメイクで、パーカーとジーパンにスリッポンみたいな気の抜けた格好をしている。
(なんでこんな日に会うの……そしてなんで私だってわかるの……)
出勤時はいつもばっちりメイクして、スカートでもパンツでもヒールパンプスなのに。自分で言うのもなんだけど、おおよそ同一人物とは思えないいでたちなのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます