第2話

「──え?」

 悠一の発言に私は耳を疑った。「よりを戻す」──?一体何の話をしているのだろう。私が言葉を失っていると、悠一はふうーっと大きく息をついた。

「いや別にさ、俺も似たようなことしたわけだしいいんだけどさ」

 そこでいったん言葉を切る。そしてふっと視線をずらしたかと思うと、また大きく息を吐きだした。

「俺は……ほら、なんだかんだ言ってちゃんと戻ってきたわけじゃん? その辺どうなのっていうか……そのつもりあんのかなって……」

 私は絶句した──いや、むしろ開いた口が塞がらない。

(何言ってるの? 「ちゃんと戻ってきた」? いやいや……)

 勝手に他の女に惹かれて捨てた女を? 自分がフラれた時の保険にキープしておいて? そして案の定フラれて舞い戻ってきたことを「ちゃんと」戻ってきた、って? まるで、「ちょこっと浮気はしたけど、自分はちゃんと本命のもとに帰ってきた」みたいな──それも十分どうかと思うけれど。

(もう、これ……どうしろっていうの……)

 あまりにも無茶苦茶というかツッコミどころが多すぎるというか……正直もう私の手には負えそうにない。


 私は静かに深呼吸する。なんとか気持ちを落ち着かせたかった。

「……私は、別の人に告白して、オーケーもらったら前の人とはさようなら、断られたらより戻そうなんて、そんな──」

 頭の中、胸の中に渦巻いているいろんな感情が邪魔をして、先がうまく続かない。

 こういうとこだ、と私は思う。こんなふうに私が、肝心な時に言葉を紡ぎ出せないせいで、もめた時はいつだって悠一に言いくるめられてきた。口論になると、理詰めで攻める悠一の方が圧倒的に有利だった。

 だからそう、私はいつも、半ば圧倒されるように納得させられてきたのだ。

(でも、今日は……負けたくない!)

 私はテーブルの下でこぶしを握り締め、それをほどきながら息を吸い込んだ。

「──そんな虫のいい話、正直ありえないと思う」

 これは過去の悠一への糾弾でもある。きっと、伝わることはないのだろうけれど。

「だからもう私は──戻らない」

 声にかすかに表れた震えを押し殺して、私ははっきりと言った。

 悠一が虚を突かれたような表情をしているのがわかる。けれど、その口からは何の言葉も発せられなかった。


 長い間、二人ともが黙っていた。昔はこういう沈黙が辛くて、必死に話題を見つけては口にしていた。でもそれって、いったい何のためだったんだろう? それに一体、どんな意味があったんだろう?

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