第5話
この間と同じ店で悠一と待ち合わせた。
やってきた悠一はわかりやすく上機嫌だった。今まで香織と会っていたのかもしれないし、この後会うのかもしれない。会ってはいないけれどうまくいっている、ということかも。
私はふっと一呼吸つくと、考えてきた言葉をそのまま口にした。
「──あのね、いろいろ考えたんだけど」
そう切り出すと、少し空気が引き締まった。ほんの少しだけれど。
「悠一と別れるのは辛いけど、でもやっぱり私は、悠一に幸せになってほしいと思ってる。だから私のことは気にしないで、ほんとに、この前言ってたみたいに、後悔しなくていいように……ね」
私は悠一の顔を見つめながら言葉を紡ぐ。そして、悠一が口を開く前に言い足した。
「だから……別れよう。それで、頑張ってね」
私はそこまで言って目を伏せた。自分で決めたこととはいえ、やっぱりみじめな気分になる。こんな気持ちは、悠一には絶対にわからないだろう。
「いい、のか……?」
悠一は私の顔をのぞき込むようにして言った。私は顔を上げ、でも悠一と視線は合わないようにしたまま、うなずいた。そしてまたすぐに言い足す。
「でもね、あの……この前の、ほら、『もしフラれたら』とか今から考えて予防線張るのってなんか違うと思うし、その、悠一が告白したい相手にも失礼だと思うのよね」
悠一はだまって続きを促した。
「だから告白したあとのことはさ、今どうこう言わないで、その時考えることにしよう? それで……そう、もし幼なじみさんと付き合うことになったら一応、私にも教えてね」
私は弱々しく悠一に笑いかけた。
目の前の悠一は驚いた顔をしていた。でも、望みが叶った喜びを隠しきれていない。私は悠一のこういう、素直で無邪気なところが好きだったんだろうか。この残酷なまでの、まぶしさが。
「あ、ああ……うん、もちろん。由佳──」
「──じゃあね! 悠一、バイバイ……」
何か言いかけた悠一を遮って、私は立ち上がった。そのまま、振り返りもせずに店を出る。悠一が追いかけてなどこないことはわかっていた。
一刻も早く遠く離れたくて、私は一心に歩道を歩く。キンと冷たい空気が、私の頬を殴った。
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