第3話
人間の頭の中とか、そこで渦巻く思考とかっていうのは、寝てる間に整理されたりするものなのだろうか。というのも、一晩寝て起きてみたらある程度結論が出ていたからだ。
(ま、別れるしかないよね)
この結論は驚くほどすんなりと私の中に入ってきて、早くも不動の地位を確立したように思える。それを裏付ける理屈だって、いくらでも浮かびそうだった。
たとえば今、私が悠一と別れるのを拒否したとしたら、悠一は香織への告白をあきらめるだろう──言ったことは守る、一応はそういうやつだから。
でも悠一は彼女への想いをくすぶらせ続けることになる。人間、手に入ったかもしれないものに対しては、いつまでも執着したりするから。
その結果、悠一は私を恨むとまではいかなくても、少なくとも私の「別れない」という返事を恨めしくは思うはずだ。それは今後ずっと、二人の関係に暗い影を落とし続けるに違いない。
私は「香織」のことを何も知らない。本当に、何も。今まで悠一は私に、幼なじみの話なんてしてこなかった。だから悠一の告白がどう転ぶかなんてわからない。
もし悠一がフラれて私のもとに戻ってくるとしたら?私たちはそれまでと何も変わらず、また付き合い続けるのだろうか。私も悠一も、そんなことができるほど器用だろうか。
あるいは、晴れて二人──悠一と香織──が付き合うことになったら? 私はまぎれもない「捨てられた身」になるわけで。
なんだか、どういう結末だとしても、ハッピーエンドとは程遠いものになりそうだと思う。
やっぱり、女友達の言うように「すっぱり別れてこれっきり」が一番なんだろうか。
「……って!」
ここまで考えたところで、私だけがひとりこんな風に根を詰めているのがばかばかしくなってきた。そう、思い悩むべきは突然こんな別れ話を切り出した悠一であって、私ではないと思う。
ふと窓の外へと目を向ける。いい天気だった。
(日も差してるし、ちょっと出かけてみようかな)
私は軽く化粧を施し、バッグに財布とスマホだけ入れて部屋を出た。スマホには無関係な通知が届くばかりで、依然として悠一からの言葉が届くことはなかった。
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