第2話
(もう、バカなんじゃないの?)
私は駅へ向かう道を足早に過ぎながら思う。私に隠れて告白して、オーケーされるなりフラれるなりしてくれた方がまだよかった。その結果次第で別れるなり付き合い続けるなりの決断をしてくれたら、こっちとしてはそれで十分だ。
でもきっと、悠一の中では私に本当のことを伝えたことに価値があるのだろう。
それはまるで、墓まで抱えていくべき過去の罪を懺悔するみたいだと思う。罪を告白した人間は、自責の念が薄れてすっきりする一方、告白された人間は、今更責め立てることも償わせることもできず、モヤモヤが募る。
──つまり告白した側の身勝手な、自己満足。
駅が見えてきた。冷たい空気に当たりながら歩いたせいか、頭は少し冷静さを取り戻した気がする。
(悠一のこと、まだ好きかな……?)
改めて考えようとするものの、簡単に答えは出ない。
付き合うようになってもう三年以上の年月が経ったのだ。隣にいるのが当たり前になっていたと思う。好きとか嫌いとかじゃなく、なんというか、悠一に対してはもっと穏やかな気持ちを抱いていた。
それでも、大切な恋人であることに変わりはなかったはずなのに。ただ、悠一にとってはそうではなかったのかもしれない。
私はカツンカツンと無機質な靴音をたてながら、駅へと続く階段を下りた。
この件に関する女友達の反応はわかりやすかった。ほぼ全員が「ありえない!」と口──スマホに届いたメッセージである以上「指」と言うべきか──をそろえたのだ。
私が取るべき行動についても、別れるの自体を拒否するか、あるいは今別れてよりは戻さないか、そのどちらかだという。
もし第三者として見たら、私だってそう言うと思う。けれど、当事者としてはそう簡単に片付かない。
だって、確かにこの扱いはどうかとも思うけれど、やっぱり悠一には幸せになってほしいと思う気持ちが、私の中にはあるのだ。それが愛情なのか、それとも単なる情なのかは別として。
いつかに読んだ本いわく、人が幸せになるためには、男は自分が一番に愛する人と、女は自分を一番に愛してくれる人と、一緒にならないといけないんだそうだ。裏を返せば、男の場合は相手が自分を一番に愛していなくても、女の場合は自分が相手を一番に愛していなくても、ということなのだけれど。
(だとしたら、今は最高で二番目だもんな……)
私はちらりとスマホに視線を向けた。悠一からの連絡は、ない。
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