最終話

 ああそういえば、と私はあの時のミニタオルのことを思い出す。

「申し訳ないです、あのあと使わせていただいたのですが、さすがに洗濯してもお返しできるような状態ではないと思いまして……代わりと言ってはなんですが」

 松本さんはそう言って目を伏せた。

「いえ、そんな全然! 高価なものでもないですし」

 私はあわててフォローする。

 よくよく思い出してみれば、あれはいつだったかのホワイトデーに悠一がくれたものだった。あまりにも未練がなさすぎて、そんなことすっかり忘れていたけれど。

 色やデザインが私の趣味ではなかったために、大切な日用ではなく、普段使いのローテーションにまわったのだと思う。

「私、こっちのほうが好きです! ありがとうございます。あっちはもう処分してもらって構わないです」

 私はミニタオルを包みに戻しながら言った。見ると松本さんはほっと胸をなでおろしている。

「よかったです。……それ、実は和泉さんをイメージして選んだんです」

 そう言っていたずらっぽく笑う。

(あっ、この人こんな表情もできるんだ……)

 私はドキッとしながらそんなことを考える。そのせいで少し反応が遅れた。

「……えっ、ほんとですか。なんかうれしいです」

 なんだかくすぐったい気分だった。

 と、松本さんが再び口を開く。

「こうして再会できたのも何かの縁ですし、よければまたお会いしませんか?」

 その言葉に、私は自分の耳を疑った。

「えっ……」

 予想外のことに私が口ごもっていると、松本さんがあわてて言い足した。

「もちろん、無理にとは言いません! もしよかったら、の話です」

 そう言って静かに微笑む。

 私は手に持ったままだった包みをそっとテーブルに置き、うなずいた。

「はい、喜んで」

 私は知らず知らずのうちに微笑んでいた。なんだか新たな恋の予感がする。


 うららかな陽気に素敵なカフェ。絶好の、恋日和だった。

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