第6話

(うわあ……なんかかわいい……)

 初めて足を踏み入れた産婦人科の院内は、私の中の病院のイメージを完全に覆してしまった。内装は柔らかい色合いの暖色系パステルカラーで統一され、一般的な病院のあの無機質な感じがまるでない。

 物珍しくてキョロキョロしていると、松本さんの手が肩に触れた。

「それじゃ、僕はすぐ近くの本屋にいます」

 そう言って、彼は建物の外へと来た道を戻っていく。私は待合室の空いている席に腰かけ、名前を呼ばれるのを待った。

 これから三十分──どんなに遅くても一時間後までにはすべてが終わる。くだらない復讐心に負けた私は、自分で決着をつけなければならない。自分で蒔いた種は、自分で刈り取るしかないのだから。

(大丈夫、きっとうまくいく)

 私はその場で静かに目を閉じた。


「結果は二週間ほどで出ますので、それまでしばらくお待ちくださいね」

 にこやかにそう言う受付の女性に会釈し、私は「携帯電話OKエリア」に立ち寄る。そこから合図となるメッセージを二人の人間に送信した。一人は当然松本さんだ。そしてもう一人こそが、今日のために接触を図った「協力者」──。

 ほどなくして松本さんが戻ってきた。

「お待たせしました。大丈夫、ですか?」

 少し心配そうにこちらぞのぞき込むその顔を、私はしっかりと見つめ返す。

「はい。向こうも準備できたみたいです」

 私たちはうなずきあい、産婦人科の建物を後にした。

 駐車場を横切りながら、そっと手を絡めてみる。と、松本さんはすぐに握り返してくれた。大丈夫。私にはこの人がついている。


 向かいのカフェから一組のカップルが出てきたのは、ちょうど私たちが駐車場を突っ切って道路にたどり着いた時だった。「協力者」の有能さに思わず舌を巻く。

 私はそちらを見ないようにしながら、隣に立つ松本さんに笑いかけた。いつもより高いところにあるその顔も、私に笑顔を向けてくれている。お互いに少しぎこちない気がするけれど問題ない。だってもうすぐ──。


「──由佳っ!!」

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