第8話

「──あ、おいしい」

 私は思わずそう口にする。レモンが浮いたグラスをコースターに戻すと、氷がカランと揺れた。

「よかった」

 そう言って私の向かいで微笑むのは、見目麗しき──と、私の好みが主張する──男性、松本さんだ。

 あのあと本当に彼から連絡が来て、こうして会うことになったのだ。

「お店もとっても素敵です。全然知らなかった」

 松本さんが案内してくれたこのカフェは、図書館にほど近い住宅街の中にあった。図書館で待ち合わせ、十分ほどだろうか、一緒に歩いてきたのだ。店内はナチュラル系で統一されていて、居心地がとても良い。

「気に入っていただけて良かったです。ちょっとした隠れ家ですよね」

 松本さんは、ロイヤルミルクティーの入ったカップをそっと置いた。私はそれを見て、次に来たときはまた違うものを注文してみようかな、と思う。


 と、松本さんが再び口を開いた。

「あの傘は、お言葉に甘えてあれからも使わせていただいています。今日はそれとは別に、実は──」

 心なしか改まった口調に、私はなんとなく姿勢を正す。松本さんは言葉を切ったまま何も言わずに、薄い包みを取り出した。そしてそれを私に差し出す。

「良かったら受け取ってください。先日のお礼と──お詫びを兼ねて」

 その言葉に、私は(ん?)とひっかかりを覚える。

(お礼っていうのはともかく、お詫び……?)

 不思議に思って、私は松本さんを見つめた。が、彼は何も言わない。

 私はとりあえず、包みを受け取ることにした。差し出したままにさせておくわけにもいかない──もしかしたら、あの時傘を受け取ってくれた松本さんも、同じことを思ったのかもしれない、とちらりと思う。

「……これは?」

 私は首を傾げて尋ねた。軽いので、メモ帳など紙類ではなく、ハンカチなど布類ではないかと見当はつくのだけれど。

「開けてみてください」

 そう言って松本さんは微笑んだ。私は包みを裏返し、封をしているシールをはがしてみる。

 中身は、ミニタオルだった。全体は薄いピンクで、白いレース糸の縁取りが施されている、かわいらしくも上品なデザインだった。

「かわいい……」

 ごく小さな声で、私はそうつぶやいた。

「良かったです。貸していただいたものとは少し違うものになってしまうのですが……」

 松本さんは微笑みながらも、どこか申し訳なさそうな声で言った。

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