第4話

 なんだか、「悲惨」以外の言葉が見つからない。思わずため息が漏れそうになる。

「……その後はご存知の通りです。ひっきりなしに連絡が来るようになったのは、助けていただいたあの日の少しあとからです……」

 なんだか、どんどん絶望的な気分になってきた。

 それでも客観的には、私は何一つ悪いことはしていない。していないように見えると思う。

「……なるほど」

 それだけ言って、松本さんは腕を組んだ。何と言えばいいかわからず私はうつむく。

「訊かれ飽きているかもしれませんが、一度別れた後よりを戻したのは、どうしてですか?」

 私はすぐには答えずに、松本さんを見つめ返した。

 そう、確かにみんな一様に「なんで?」と口にした。けれどそれは半ば反射のようなもので、心の中では「それくらい好きなんだな」なんて勝手に納得していたんだと思う。

 でも多分、この人はわかっているんじゃないだろうか。私があの時復縁を受け入れたのは、悠一が好きだったからでも、悠一を気の毒に思ったからでもないということを。

 一瞬迷ったけれど、私は正直に話すことにした。

「……いつか、意趣返しをしてやろうと思ったから、です」

 改めて口にすると、我ながらとんでもないなと思う。悠一をそっくり同じ目に遭わせるためによりを戻しただなんて。

 つまるところ、私は復讐という甘美な誘惑にあらがえなかったのだ。そういう意味では、今のこの状況は身から出た錆であると言えるかもしれない。やっぱりこの件に松本さんを巻き込むのは間違っているだろうか。

 ふっと笑い声が聞こえた気がしたのは、そんなことを考えていた時だった。

「じゃあその『意趣返し』は未遂に終わったわけですね」

 眼鏡の奥の目が少し笑っている気がする。けれど私は答えに窮してしまった。

 あの時の私は、いつか悠一に最大のダメージを与えられるタイミングで仕返しを決行しようと考えていた。

 だからこそ「まだ、今じゃない」と耐えたはずだったのに、その「今」を迎えることができずに今に至る。

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