第3話
「……え?」
予想外のことに私が何も言えずにいると、悠一が再び口を開いた。
「──なにそれ。髪。どうしたの」
椅子に座りもせずに詰め寄ってくる。長い付き合いだけれど、私はこんな表情をしている悠一を見たことがない。
「なにって……切ったんだけど」
小声で答えながら、私は無意識に毛先を撫でた。と、それを見た悠一が盛大なため息をつく。
「はあ……なんで勝手に切っちゃったの」
きつくはないけれど、なんだか不穏な口調だった──そう、どこか詰問のような空気を感じる。悠一は私と目を合わせることなく、またもこれ見よがしにため息をつきながら椅子に座った。
「……そんなに、変、かな?」
悠一の異様な雰囲気に気圧され、私は恐る恐る尋ねた。自分では長かった時よりも似合っていると思ったけれど、客観的には違うのかもしれない。そんなふうに少し不安になっていると、悠一が目だけこちらに向けて言った。
「それさあ……伸ばすの何年かかると思ってるの?」
うんざりしたような言い方だった。
(──え?)
私は思わず悠一の顔を見つめた。悠一の発言は、私の問いへの答えにはなっていない。
でもそんなことは大した問題じゃない。私は最初からなんとなく抱いていた違和感がどんどんと色濃くなっていくのを感じていた。
「長い方が絶対良かったのにさ。なんで……勝手に切っちゃうかな」
悠一の声が少し苛立ちを帯びているのが感じられる。
「え……」
つい声が漏れてしまった。けれど悠一がイライラを募らせていくのに比例するように、私の頭は冷静になっていく。
ふわふわした幸せな気分からようやく覚めて、私は思った──こんなことを言われる筋合いはない、と。
「……自分の髪型をどうしようと、私の自由じゃない?」
努めて冷静に言う。たいていのことには慣れたし諦めも覚えた。だから悠一への不満が爆発しそうになるのは本当に久しぶりのことだった。
(「勝手に」ってなに? 髪切るの一つにも「許可」がいるっていうの?)
そんなことを思いながらも、それが顔に出ないように意識する。悠一は見るからに不満そうだった。
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