第4話

「……そういう言い方する? 俺は前の方が好きだったし、なんていうか、一言相談がほしかったなって言ってるだけなんだけど」

 そう言って自分で買ってきたコーヒーをすすった。

(「相談」、って……)

 もし実際に「相談」なんてしていたら、絶対に切らない方向に丸め込まれていたに決まっているのに。だって、悠一の言う「相談」はそういうものだから。むしろ丸め込む自信があるからこそ、悠一は「相談」しなかった私を責めているのだと思う。

 私はため息を飲み込んだ。それを知ってか知らずか、悠一がため息交じりに言う。

「……なんかいっつもそうだよね。大事なことは全然相談もなく一人で勝手に決めちゃうじゃん。それで、俺にはいっつも事後報告」

 精一杯の嫌味を込めたのだろうその言葉に、私は思わず笑いそうになってしまった──もちろん、この場で笑ったりなんてできないけれど。

 でも髪を切る程度のことが「大事なこと」? 相談がいるような?坊主にしたとかいうわけでもないのに? そんな反論が声にならずに渦巻く。

(それに「いっつも」って……?)

 悠一は何の話をしているのだろう。大学時代に選んだサークルか、所属したゼミか、あるいは就職先の会社のこと? いずれにしても、自分で考えて判断するのが当たり前だと思うけれど──活動するのも学ぶのも働くのも、結局は全部私なんだから。

 それに万が一「相談」なんてしたら、きっと悠一はぐいぐい自分の意見を押し付けてくる。そしてその「アドバイス」に従わなかったら、それをずっと根に持つのだ。

(そんな相手に相談なんてするわけないじゃない……)

 なんだか、まともに言い合う気持ちも起こらない。私はふっと息をついて、悠一を見る。

「髪なんてすぐ伸びるよ。あれくらいだったら……二、三年」

 私は感情を隠して言った──もちろん、見当違いを承知の上で。いい加減、悠一は自分好みの髪型を私に強制したかっただけだとわかってしまったから。

 だからこの件に関しては絶対に謝らない、と私は心に決めた。

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