第5話

「ほら! そんなにかかるんじゃん」

 悠一はなぜか、どこか勝ち誇ったように言った。私はなかば唖然としてしまう。なぜ髪型一つでここまで話がもつれるのか、もう意味が分からなかった。けれど私は言い募る。

「でも長いのって結構大変で……ほら毎朝のセットもだけど、シャンプーもドライヤーも大変だし、傷まないように気遣うし」

 このあたりは実際、ある程度本音なのだった。「特別きれいではなくても見苦しくない」というレベルのロングヘアですら、必要とされるケアはいくつもある。それを悠一は、理解しない。

「今まではできてたのに? それにそんなのみんなやってるでしょ」

 そう言って悠一は足を組んだ。頬杖を突きながら足を組んでいるところを見ると、さっきよりも苛立ちが増しているらしい。

(みんな、ねえ……)

 そんなに言うなら周りを見渡してみてよ、と思う。例えばこのカフェの中にだって、切る前の私と同じかそれ以上の長さの髪をおろしている人なんて一人もいない。そういう現実を、知りもしなければ見ようともしないのだ。

(そうやって見たいものだけ見ていればいいんじゃない?)

 なんて、私は少しだけ意地の悪いことを考える。


 と、悠一が再び口を開いた。

「──てかさ、だいぶ明るくしたよね」

 明るく? なんのことだろう。私は若干首を傾げる。

「色も髪型も勝手に変えて……別の男の趣味なわけ?」

 低い声だった。悠一はこちらと目を合わせようともしない。

(色? 他の男?)

 さっぱり理解できなかったその意味が、徐々につかめてきた。私が浮気なり何なりしていて、その相手の好みに合わせて髪型を変えた、と悠一は疑っているのだ。

(──はあ!?)

 あまりのことに絶句してしまった。本当に今日の悠一は何を言っているんだろう。

(あ、そうか……)

 彼女と言うのは自分の好みに合わせた髪型をしてくれるものだ、というとんでもない勘違いのためにこういう発想になるのか。私は悠一の顔を凝視したまま一人納得する。

 が、それが良くなかった。悠一はどうやら、私の沈黙を黙秘──無言の肯定と受け取ったらしい。

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