第28話男の正体
突然現れた男は、全身を覆うマントで顔を隠していて如何にも怪しい。
いくら平和ボケした俺でもこれを警戒しない理由は見つからない。寧ろここが日本ならマントの下は裸で特殊な性癖を持つ変態だろうと応用に構えていられたかもしれない。
いきなり攻撃されても子供達を守れるように男から少し距離をとり、魔法で身体を強化した瞬間、男がマントから小瓶を取り出し俺たちに向かって投げつけてきた。
魔法か刃物などの武器で攻撃してくると思っていた為、対処方法の判断が遅れ、咄嗟に子供に覆いかぶさって守るのが精一杯になってしまった。小瓶が背中にぶつかり割れた瞬間、中身の液体が掛った部分が焼けて激痛が走り意識が飛びそうになったが何とか堪えて、立ち上がる。
「クソがっ!ルー悪いが起きてくれっ!ニコ、ルーを頼む」
本格的に男を撃退する為、ニコに今だに熟睡中のルーを預けてティムと共に下がらせるようとするが、マントの男はそれに対して特に反応も返さず淡々と小瓶を投げつける攻撃を続けてくる。
今度はまともの受けずに返り討ちにしてやると意気込んで魔法を展開させようとしたが、二度目の小瓶がぶつかる寸前にどこからか風魔法が発動され俺たちの周りに空気の層ができ、液体から身を守ってくれた。
この魔法が自身やルーが発動したものではなかったので、今度は何だと体の痛みのせいも有りイライラが募る。
これまで無反応に攻撃をしていたマントの男が、風魔法が発動した瞬間に視線を上に向け舌打ちをして身を翻して去って行くので、どうやら男にとってはありがたくない者が近くにいたのだろう。
緊急の危機が去ったせいか、気が緩み気力で抑え込んでいた背中の痛みが自己主張を開始して意識を失いそうになる。
視界が暗くなる瞬間に、穏やか声が子供達を宥めるのを聞き、敵ではないんだろうなと思ったのを最後に意識が完全に落ちた。
呼吸がうまく出来ず苦しくてしょうがない、もう限界だと感じた瞬間に目が覚めた。
うつ伏せに寝ていた俺の顔にピタッっと覆いかぶさるようにルーが寝ていて、このせいで呼吸が出来ず苦しかったのかと、ルーを摘み上げて納得する。
身を起こした時に背中に痛みが走ったが、よく見てみるときちんと手当てをされたのか包帯が巻かれていて、自身からキツイ薬の匂いがしている。
辺りを見渡し、状況を整理しようとするも自分が今見知らぬ部屋で手当てをされて休んでいることしかわからない。ルーはここにいるが、ニコもティムの姿が無いので不安が胸を過ぎる。
あのマント男の襲撃からどれくら時間がたったのかわからないが、何日も過ぎていない事を祈りつつ、ここから出ようとを決めた時、部屋のドアが開きニコとティムを連れた男が入ってきた。
「おっ!もう目が覚めたんだな?どうだ気分は?火炎草液をまともにくらって生きてるヤツ初めて見たよ…お前丈夫だな」
褒めてるいるのか、呆れているのかよくわからない口調で男が俺に言うが、俺だって死にそうだったわいと文句を言いたい。だが、どうやら命の恩人らしいのでグッと堪える。
「貴方が助けてくれたんですか?ありがとうございます。ニコ達の面倒もみてくれたんですね」
ベッドに駆け寄ってきた二人の頭をそれぞれ撫でて御礼を言うと、男は満面の笑みを浮かべてもっと預かってもいいぞと返してきた。
正直まだ目も覚め切っていなく、どこかボヤけて見えていたので気がつかなかった。
部屋に入ってきたのが男と判断したのも、その体格の良さと声からだったので改めてその顔をじっくりをみて絶句する。
男の顔を見た千人中千人が悪人と判断すると断言できるほどの悪人顔で、左眉の上から頰にかけて走っている刀疵がそれに拍車をかけている。しかもガタイが良くガッシリしているので迫力が半端ない。筋肉モリモリの武闘派だ。
一瞬敵の手に落ちたのだろうか?と無意識に眉間にシワを寄せ首を傾げていたのだが、俺の思考を読んだ男は豪快に笑って宥めてきた。
「安心しな!俺はこんな見た目だが、お前を襲った男の仲間じゃないぜ!お前を助けたのは俺の部下だが、奴の話じゃお前たちはこの街に着いた時から狙われていたらしいぜ?」
びっくりして男を見ると、いつのまに懐いたのか双子が男に抱き上げられてニコニコ笑っているので更に混乱する。
「へ?狙われていたの?と言うかニコもティムも随分と懐いているんですね。俺そんなに長い間寝てました?」
「いや?まだ襲撃を受けてがら4時間ぐらいだな?腹は減ってるだろ?この子達はもう食べさせたが、そのちっこいのはまだなんだ。ここに飯を運ばせよう」
そう言って男は双子を連れて部屋を一旦出て行きすぐに戻ってきた。
すっっっごい悪人面なのにとってもいい人らしくギャップが酷い…何が何だかと頭が混乱する。
あのマント男は俺たちをこの街に来た時からつけ狙っていた…そして彼の部下はそれを知っていた?う〜ん俺たちはそれぞれから見張られていたって事か?だとしたら俺かなり鈍くない?!全然気づいてい無かったよ…
自身の鈍感さに愕然としているとずっと寝ていたらしいルーが起きて「ごはんたべる…」と目を擦りながらベッドにポテっと座っている。
ルーを抱き寄せ危機管理がなさ過ぎるなと反省していると、男がニカっと笑ってもうすぐ飯だぞとルーの頭を撫でる。
ルーが興味津々で男をを見つめて「ごあだ!」指差すので慌てて口を押さえるが、時すでに遅く…丁度、部屋に食事を持ってきた使用人らしき男性達にしっかりと聞こえてしまったらしく、ブハッと吹き出す声が響く。
ゴアとは森にいる熊をより凶悪にした獣で人間が森で遭遇したらまず生きて帰れないと言われている危険な獣だ。たしかに似ている気もするが、そう指摘されて喜ぶ人はいないだろう…怒りだすかとヒヤヒヤしていたが、男は吹き出した使用人達と豪快に笑い合っていて特に怒った様子はなく一安心だ。
「すみません…失礼な事を言って。あの食事も用意していただきありがとうございます」
「何がだ?子供が思った事を素直に表現するのは当たり前だからな!気にすることは無いだろ?俺が厳つい面なのは確かだしな。ほら、ちっこいのも腹が減ったんだろ?温かい内に食っちまいな」
…はぁ〜懐がでかいな!短気な奴なら子供だろうが、関係なく怒りだすのに…本当に人って見かけによらないよな…
温かいご飯をいただき腹も膨れ、男の包容力に感謝していると、男から先ほどの話の続きを聞かされた。
「あのマントの男はある組織の人間だ。最近魔力の多い子供が行方不明になる事件が相次いでいるので、街にやってきた子供はそれなりにこっちもチェックしていたんだ。お前たちは条件的に合致しているから部下達も特に注意していたのにな…正直火炎草液まで持ち出すとは思っていなかったから、怪我をさせちまってすまなかったな」
そう言って頭を下げるので、慌ててしまう
「いえ!事件のことは街の人に聞いて知っていたのに危機感が弱かった俺が悪いんです」
男が顔を上げ逡巡するように一瞬黙りこんで俺を見てから口を開く。
「…孤児院に行ったよな?子供達を預ける気か?お前とそのちっこいのは血のつながりがあるだろうが、この二人は違うだろ?」
男の質問にいつも説明している内容を聞かせると男は押し黙り、俺をジッと見つめてから再度頭を下げた。
「頼む。俺にこの子たちを育てさせてくれないか?必ず責任もって養育して幸せにするって約束する」
男の言葉に驚いて双子を見ると、双子も俺に笑顔も向けてくる。
「あの…どうしてですか?そんなに簡単に決めていいことじゃ無いと思うんですけど」
「確かに急な申し出に聞こえるよな…でも養子のことは実はだいぶ前から検討していて、色々各所と相談していたんだが、俺のこの見た目からか子供は皆怖がって、ちっとも話が進まない。もう諦めようかとしていたんだが、この子達は俺を一切い怖がらないし、むしろ懐いてくれたんだよ」
嬉しそうに双子を抱き寄せる姿からは確かに慈愛を感じるので信じてもいいだろうが、双子の事情をしっかり納得してからもう一度検討してほしくて、嘘偽りなく双子の真実を話すと、男は顔からあらゆる水分を流して大泣きし双子を力一杯抱きしめて必ず幸せにするかなと叫んでいる。
双子も苦しそうにしながらも嬉しそうに抱きついている様子でこの男を信頼しているのが良く伝わってきた。
「ニコ、ティム会ったばかりのこの人に何でそこまで懐いているんだ?」
俺としては二人が幸せになってくれるなっらそれに越したことは無いが、不思議ではある。
「お父さんと同じ匂いがするの…」
「大好きな匂いだよ!」
二人の答えに?を浮かべていると、男が涙でぐしゃぐしゃな顔でニヤリと笑った。
「そうだろうな…俺にも獣人の血が流れているからな。俺は熊と狼の獣人の血が流れている。もちろん人間たちには内緒にしているがな」
その答えになるほどと納得する。
人間離れした悪人顔もそのせいなのかもとチラッと思うが、それよりも二人が安心する理由がわかってスッキリした。彼らの中の獣人の血が惹かれあったのかもしれない。それに双子を養育するのが普通の人間では、その血の事がわかったときにまた悲劇を生む可能性もあるが、この男ならその心配がないので安心だ。
「信用してお任せしていいんですね?」
最後にもう一度念押しすると、真剣な目で頷き
「必ず幸せにするって誓う。ハン=アルベルトの名にかけて」
…?アルベルト?…
つい最近聞いたことがあるような…?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます