第25話孤児院での修羅場

 翌朝、何時ものごとくルーの強烈な一撃で目覚め呻きながらもベッドから身を起こす。

 「毎日、必ず腹に攻撃してくるけど、寝てるんだよな?目覚ましより正確に起こしてくるんですけど??」

 腹をさすりながらまだぐっすり寝ているルーを確認して跳ね除けた掛け布団をかける。

 窓を開け外の様子を伺うと、今日もいい天気で暑くなりそうだなと思う。港を出港した船も見えるが、船体から櫂が何本も出ているので、もしかして人力であのでかい船を動かしているのか?と目が点になる。一体何人が乗船しているのだろう。

 魔法で風を調整して動かした方が、楽で速い気がするのだが、やはり人間の魔力では目的地まで持たないのだろうか、それとも、強い魔法を使える人間が少なくて貴重なのだろうか、とにかくアレでは一度運べる積荷も限られてしまい非効率でしょうがない。明かに積荷より乗務員の方が多いのだから。

 「他国と貿易してるのかな?あれじゃあ余程高価ななものか希少物でないと赤字じゃないの?でも、ちゃんと利益があるから航海にでてるんだよな?」

 船で冒険なんてまるで某海賊漫画のようで少し憧れるが、人力は勘弁してほしいので海へ出るのは無いなと漠然と考えていると、起き出した子供達が元気に「おはよう」と抱きついてきた。

 「おはよう、よく寝てたね。今日は海とは反対方向を探索してみようか?チラッと孤児院がどんなところか覗いてみよう」

 正直、子供の誘拐事件が頻発している街にこの子たちを預ける気はないのだが、孤児院がどの様に運営されているのか、規模や養育環境なども知って今後の参考にしたいので見学しておきたい。


 子供達と自分の出かける用意が済んだら、下の食堂で朝食を食べて街に出る。

 物語の中では異世界の料理は未発達だったりして物足りないものが多いが、この世界は基本的何を食べても美味しいのが嬉しい。

 俺の200年前にすでに共有者たちがこの世界に来ているのだから地球の料理や調味料などが再現されているのは当たり前なのかもしれないが、そのおかげて俺は何もしなくても馴染んだ美味しいものが食べれるので本当にありがたい。 

 ただ、料理以外の地球の科学的技術などに関しては一切漏らさないで、自分達だけ魔導具で再現して利用しているのだからいい性格してるし、すごいと思う。俺なんて例え知識があったとしても、どうやって作るのか皆目検討もつかないからさっさと諦めるしかない…自分の残念な脳みそが恨めしいが、今のところどうしても無いと嫌とか困るとうい物が無いのが救いだったりする。


 子供達を連れて街をあちこち見て周っていると、海沿いの港付近は街の住人や他所から来た人達が多く賑わっているので活気があり庶民的だったのだなと、遠い目になる。

なにせ、その反対側ときたら割としっかりした店構えの路面店が軒を連ねていて、訪れる人もそれなりの身なりをしていてるので子供連れの余所者は結構浮いてしまい、すれ違う人はチラチラ、ヒソヒソと感じが悪い。

 俺だっでそれなりに金持ってるからな?!とキレそうになるのをグッと抑えてそそくさとその場を立ち去り屋台で買った肉たっぷり挟んであるサンドイッチを片手に一息つきいていると、建物の陰からこちらを伺っている人物がいることに気がつく。

 そちらを気にしていると、ルーがずいっと目の前に乗り出してきて口を大きくあーんと開けてくる。

 「うん?なにルー君食べたいの?」

 手に持っている食べかけのサンドイッチをルーの口に持っていくと、ガブリと手ごと食いついてきたので、びっくりしてぎゃあと叫んでしまうと子供達はおもしろがってケラケラ笑い出す。

 「コラ、手ごといくなよ!」

 キャッキャッと楽しそうな様子で俺が怒っても全然気にせず「もっとちょうだい」とおねだりしてくるのでつられてこっちも笑ってしまう。

 ルーに気を取られたので、こっちを伺っていた人物がいたのを思い出した時はすでにいなくなっていた。


 気を取り直して孤児院のある辺りへ向かうとそこはまた少し雰囲気が違っていて少し荒んでいる、どちらかというと貧しい人々が暮らしている地区の様だ。

 「まぁ…そうだろうな〜住む場所を失った人に与えれられる住処ってここだろうな…」

 住んでいる人の顔はどことなく生気がなく、俯きがちなのは失ったものが多すぎていまだに立ち直れていないせいだろう。

 それでも、生きていくためにここにいるのだろうが、ふとした瞬間に埋められない心の隙間が顔を覗かせ彼らを塞ぎ込ませている。気丈に振る舞ってもここに住う人々が皆この調子では全体的に荒んできても仕方がない。

 ルーがキョロキョロと落ち着かなげにしているし、楽しそうに手を繋いて歩いていたニコとティムが空気に呑まれたのか俯きがちになってしまったので、ここから早く立ち去った方がいいと判断して踵を返そうとすると、前から威勢のいい女性の怒鳴り声が聞こえてきた。

 「ふざけたこと言ってんじゃないよ!アンタ何様のつもりだい?ここの子達は売りもんじゃないんだよ!!さっさと消えて二度と姿を見せるんじゃないよ。さもないと二度とそんなふざけたことを言えない様にしてやるからね」

 怒鳴った女性が頑丈なドアから男性を蹴り出したうえに木の桶を思いっきり投げつけてから叩きつける様にドアを力一杯閉める。

 しかもドアを蹴ったのかガァン!という音が中から響くので、生気のないの辺りの住民もすくみあがってそそくさと家に逃げ込んだ。

 俺も走って逃げたいが、投げつけられた桶を顔に乗せたままピクリとも動かない倒れている男にルーは興味津々で近づきたがった。

 何がルーに琴線に触れたのかはわからないが、子供たちを近寄らせるのは嫌なのでルーを説得しようとした時、男が急にガバッと起き上がり怒鳴り出した。

 「人の話は最後までちゃんと聞きやがれクソアマが!!誰がいつ子供を買うなんて言ったよ!!そんなんだから未だに嫁の貰い手もないんだよ!」

 その瞬間またドアが開き女性が怒りの形相で「死ね」と包丁を振りかざし、男は包丁を桶で受け止めて、更に口喧嘩がヒートアップするのを俺はただ呆気にとられてみているしかできなっかった。

 

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