第26話街の異変
男女が大声で怒鳴り合いながら、女の方が刃物を持ちだし、本気で切りかっているのだから止めた方がいいのだろう。
だが、あまりの剣幕に近所の住民も息を潜めて気配を隠し、巻き込まれない様にしながらも俺達に何とかして欲しいという視線チラチラと向けてくる。
冗談じゃないと俺も子供達を連れてその場から逃げ去ろうとした時、ルーが修羅場真っ最中の二人に向けて魔法をぶっ放した。
小さい雷が二人を直撃し、ギャァ!と叫んで二人同時に倒れ伏すのを思わずスンとした表情で見つめてしまう。
ルーは雷の直撃を受けてピクピクしている二人に満足気に「けんかはだめよ」とニコニコしながら注意しているが、彼らには聞こえているのだろうか…
それにしても、ルーは割と容赦も躊躇もなく人に向けて魔法を使うので嫌な予感はしたけど、まさか雷を落とすとは思わなかった。
下手したら死んでいたかも知れないので、ここはルーに注意した方が今後のためにもいいわかっているが、純粋に良いことして褒められる気しかしてない満足気な笑顔を向けられると何故かつられて俺も褒めてしまう。
きちんと叱ってしつけられる親って偉大なんだなと思考を飛ばして現実逃避していると、意外と加減されていたのか倒れ伏していた二人が揃って元気に起き上がり、俺に向かって文句を言い出した。
「てめぇ!人に向かっていきなり魔法ぶっ放すなんて何考えてやがる!殺す気かよ!」
「いくらなんでも雷落とすって馬鹿なの?!死ぬかと思ったわよ!」
二人は、抱っこされてる幼児が雷を落としたとは思いもしないので、俺が魔法を使ったと判断し、ごもっともな文句をぶつけてくる。
それに対して顔を引きつらせながら、なんとか宥めようとしていると、抱き抱えていたルーが不満そうにプクッと頬を膨らませて、
「けんかはだめだからるーがめってしたのよ?」
とお前らが悪いのだと指摘する。
流石に、幼児に対しては声を荒げる事はせずに一瞬憮然として押し黙り、彼らは気を取り直したのか、こちらに謝罪してきた。
路端で殺し合いをしだしたからヤベー奴らだと思ったけど、意外とまともなのかもとちょっとだけ見直した。特に子供達を怖がらせてしまった事が、孤児院の関係者らしき女性には応えたようで、俺の足にへばりついて固まっていたニコ達に何処から出しているのか不思議なほどの優しい声で謝っている。
だが、先程の剣幕との落差がありすぎてニコたちが物凄く警戒してるので、わかりやすく落ち込んでいた。
「あぁ、こんな小さな子を怖がらすなんて私としたことが、淑女にあるまじき行為だったわ…」
「…淑女が刃物を道端で刃物を振り回したりするかよ。でも、悪かったなお前らこの辺の奴じゃないよな?孤児院に何か用なのか?」
男が余計な一言を言ったせいで、女性が片眉を跳ね上げ「ああん?」と反射的に睨みつけたが、ニコとティムが更に強く俺の足にしがみついたのが視界に入ったのか、深呼吸を繰り返して気を落ち着かせている。
「…まぁその、用っていうか孤児院を見学させてもらいたいなと思ってきたんですけど、お取り込み中なら出直します」
「見学って子供を預けるのか?それとも子供の引き取りを希望…の訳はないよな…」
俺を一瞥して男は一人で納得したようで、ウンウン頷いている。
「預けるっていうか、その、俺達は村の出身なので孤児院がどういうところかきちんとは知らないんですよ。だから、大きな街で孤児達はどうしてるのかなって思って見学に来たんです」
「村の出身か…もしかして魔獣で親を亡くしたのか?頼れる親戚どころか村も壊滅したのか?」
男が俺たちの状況を理解したのか、頷きながら確認してきたので、その通りだと返事をしておく。
「この足にしがみついている双子の兄弟を旅の途中で保護したんですよね。本当はこの街の孤児院にお預けしようかと思っていたんですけど、宿泊している宿の女将さんが今この街で子供の行方不明騒動が起きているって聞いて、折角無事に保護できたのに今更ここで危険な目にあわせるのは嫌だなって思って、とりあえず今後のために孤児院の知識を仕入れにきたんです」
「お前自身まだ若いのに…まぁ、村なら所帯を持つのも早いか…もしかして、腕の中のガキはお前の子か?」
まさかルーと親子に間違われるなんて思ってもいなかったので、へ?っと気の抜けた声が出たが、「弟です」と訂正する。
共有者となって見た目が変わり、ルーと似通っているので兄弟設定で旅をする事にしたのだが、親子の方が違和感ないのかな?と今後の設定をどうするかを頭の片隅に置いておき、今は男に注意を向ける。
「俺たちも孤児ですが、弟のことは俺が責任を持って教育していくつもりです」
キッパリと言い切ると、女が腕を組み、なんとも言い難い顔で俺を上から下まで何度も見返して、しだ定めをしだしたのでその異様な気配に半歩足が下がる。
「…なんでしょうか…?」
「まだガキなのに幼児を責任持って育てていくことができるのかしらって思って!育児舐めんなよ?」
「あの、舐めてはいませんが…俺の大事な弟なので他人に手渡す気がないだけです。それに。治安の悪い地域に子供を預けるよりは一緒にいた方が安全に育てられる自信はありますよ?」
女はカチンときたのか、俺を睨みつけるけど、男のほうが呟いた「お前に任せるよりはましだろう」の言葉をきき、男になかなか気合いの入った蹴りをお見舞いして黙らせる。
「そうね…確かに幼い弟さんを預けるのは抵抗があるでしょうね。それはわかるわ。とにかくここで立ち話するような内容じゃないから中にどうぞ」
男が蹴られた足を押さえて蹲っているが、しれっと無視して俺たちを中に案内する女に少し警戒しつつも、現状を確認するために少し落ち着いて話したいので中に入る。
男が魔獣より凶暴な女だなとボヤいて後に続いてきた。
案内されたのは客間として利用しているのか、テーブルと椅子の他は何もない質素な部屋だった。まるで刑事ドラマで観た取調室みたいだなと思いながらも席に着くと、男女が揃って俺たちの前に座るので、頭に?が浮かぶ。外で言い争っていた内容で、てっきり男は孤児院の経営には無関係の人物なのかなと思っていたが、実は関係者だったのだろうか?俺の疑問に気が付いたのだろう、男が自己紹介をしてきた。
「俺はこの孤児院の元出身者で今は子供達の面倒をみる側になったジョンだ。そしてこのおっかない女も俺と同じ元孤児のマーサ。俺たち以外にも数人が孤児院の職員としてここにいる。魔獣の騒ぎで孤児の数がここ数年で一気に増えて正直ここだけじゃ足りないくらいなんだよ」
「職員だったんですね…外の騒ぎではそうは思えませんでした。人身売買とかなんとかって言ってませんでした?」
俺の訝しげな視線に対して、目を逸らしつつ男、ジョンはあぁ…っと頭を抱える。
「…お前もさっき言ってただろ?子供の行方不明騒動のこと。これまではあくまで噂で、魔力の多めの子供が拐われて高値で売られているって話があったんだ。本来魔力の多い子供は育てにくし、普通の子より大人になる前に死んじまうことが多いし、病気がちで金がかかるって話だ。だから、育てられない子を親は森に捨てる。胸糞悪いが子供は奴隷商も買わないからな…なのにここ最近、嘘か本当かはわからないが、魔力の多い子を高値で買い求める貴族がいるって話が大きく聞こえてきた。それを信じた奴らの仕業だろうって」
「…噂なんですよね?誰も実際に貴族に接触はしてない?」
「俺らみたいな庶民がお貴族様にお目通りなんてできるかよ。まぁ、そうだな悪い噂しか聞こえない貴族がこのも街にもいるからな…真実味があるんだろう」
ついこの間みた大木の精霊に対する結界にされていた子供たちが頭に浮かんで気分が悪くなる。
「孤児なんてただでさえ下に見られやすいのよ。どうせ捨てられたんだろってね。今は職員の目も行き届いているから被害にあった子はいないけど、騒ぎが続くと思うと怖くなるわ…」
マーサがため息を吐く。ジョンが呆れたように彼女をみてから俺に向かって説明を続けた。
「俺はこの噂を確認しに街の奴らに話をききまくったさ。その際、貴族の名前までだして忠告してくる奴もいた。子供達を守りたいなら領主様に直接お願いしたほうがいいって。でも院長でも直接領主様へ話は持っていけないから間にある貴族の方を紹介するって言われて、その相談をしようとしたらコイツは何を勘違いしたのか…俺が子供を貴族に売ろうとしてるって怒りだしやがって!」
憮然とマーサに文句を言っているが、確かにそれは濡れ衣だなと呆れた目でマーサを見ると、彼女はシレッとした顔をしている。
「紛らわしいコイツが悪いわよ。仲介料だって払わないといけないんでしょ?悪人と勘違いしてもしょうがないわ」
すごいな…勘違いであんな暴力を振るって最後は刃物まで持ち出したのに全く反省してないなんて…
マーサに妙に感心してしまう。
「とにかく今この街で子供が危険なのは間違いないだろう。馬鹿な奴はとりあえず子供を拐うかもしれないからな。魔力が多かったらラッキーって感覚でさ」
「…領主この件で動いていないんですか?」
「…魔獣退治や壊滅した村の復興、戦争に領主様の頭を悩ます案件は事欠かないからな。実際の所、動いているかはわからないんだよな」
この街の状況は結構厳しいものがあるらしい。大きな街だから受け皿となり、領民への責任も大きいのだろうと思うと、責任者は本当に大変だよなと思う。
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