第24話海の見える街

 街の向かう途中は、みんなで食料を求めて狩りをしたり、果物や木の実を求めて彷徨ったりしてワイワイ楽しく過ごすことができた。

 俺だけルーの加減をしない魔法で獲物ごと燃やされて悲惨な目にあったりしたが、他は概ね平穏に過ごすことができたのでよしとしよう。

 子供達がルーのはちゃめちゃなテンションに無理なく付き合えるようになって、笑顔が増えてきた時には、目指していた南の街についた。

 森から少しだけ低く、離れた位置に大きく頑丈な防壁が見える。街を囲っているらしい。

 街に入るのに軽く荷物検査と人物確認されたが、魔獣に襲われて逃げてきたと言えばすんなり通してもらえたし、この街に住むことを希望するなら申し出れば、改めて審査をして場合によっては住む場所や仕事を提供するといわれびっくりした。

 なかなか至れり尽くせりで逆に怪しくなったが、単純に戦や魔獣退治で諸々の人手が足りないそうだ。無理強いや強制ではないそうなので適当に返事をしておいた。

 街の全体の雰囲気はどちらかというとゆったりしていたが、やたらと活気のある威勢のいい声が聞こえてきたので足を向けると、市場があり、店員が客を大声で呼び込んでいる。

 ふと、潮の香りがしたので顔を向けて見ると、海が見える。

 そこは、港らしく船が何隻も停まっていて、なかには積荷を降している最中の船もあり男達の怒声が響いていた。

 「うわっ、南の街って海に面した港町だっったんだな!」

 「うみ?この大きな池みたいのうみっていうの?」

 ティムが不思議そうに俺の言葉に首を傾げて聞いてくる。

 「そうだよ。海。この海をあそこに停まっている船で移動すると別の場所へたどり着けるんだ」

 「へんなにおいがするの…」

 ルーが顔を顰めて鼻をつまみ嫌そうな顔をしている。

 「潮の香りだね。確かに慣れないと気になるかもね。」

 「僕もちょっと苦手かも…」

 ニコも困った顔になっているので、場所を移動することにして、まずは本日の宿探しをすることにした。

 お金は衛藤から金貨、銀貨、銅貨を預ったし、森で採取した獣もギルドに卸せば金になるので多少金額が高くても、安全面がしっかりしていて清潔でゆったり過ごせる宿を探したい。

 市場のお店を冷やかしつつ、おすすめの宿を聞いてみたら、何人かの人に同じ宿を勧められたので、行って見ると海に面した通りの住宅街から少し外れた場所に宿やの看板が小さく掲げられているのを見つけた。

 「≪宿や海猫≫…うん、アレだね。外観も綺麗だし、あんまり騒がしく無いのもいいね、よし部屋が空いているか確認してみようか」

 好奇心が強いルーが宿に突撃をかまさないように、抱き上げてから宿の門をくぐる。

 「ごめんください!」

 奥に向かって声をかけると、恰幅の良い朗らかそうなおばさんが「ハイハイ!」と声を出しながら顔を出した。

 「あら、こんにちはもしかしてお客さんかしら?」

 「そうです。あの俺たちが泊まれる部屋は空いているでしょうか?」

 「えっと、子供さんとお兄さんの4名でいいのね?大丈夫、空いてますよ」

 「よかった。では、とりあえず3日間でお願いします。延長も可能ならお願いするかもしれません。あと、アシヌスと狼がいるんですが、狼はきちんとしつけがされているのでご迷惑はかけませんのでお預けしてもいいですか?」

 「狼ですか?珍しいですね。勿論大丈夫ですよ外の厩舎になりますけど、今はどなたの馬もお預かりしてませんからご遠慮無くどうぞ」

 「ありがとうございます。この辺りは夜子供を連れて歩いても危険はありませんか?大丈夫なら夕食は街の探索を兼ねて外でしてこようとおもうんですが」

 「そうね…この小さい子たちだと少し危険かもしれないわ。最近幼子が行方不明になる事件が何件か続いて起きたのよ。犯人がいたとして捕まってないし、子供も見つかってなくて…」

 「…それは、怖いですね。わかりましたすみませんが、夕食もお願いできますか?」

 「もちろんですよ。お代が前払いなら3泊で銀貨6枚、後払いなら銀貨7枚になります。食事代込みですので、食事が不要の場合は後でその分お返ししますよ」

 高いのか安いのかわからないが、屋台で摘んだ肉が銅貨2だったので、3泊でその値段なら良心的な気がする。

 「前払いでお支払いしますね。えっと銀貨6枚ですね」

 女将さんの手に銀貨を6枚数えて渡し、部屋へ案内してもらったが、大きめなベッドが二つある。広くてゆったりしていたのでまるで海辺のリゾートホテルのようだなと感心してしまった。

 「予想以上に綺麗だな!いいね〜ゆっくり休めそうだね」

 すでにベッドでゴロンと転がって遊んでいる子供達の様子からも気にいったのがわかる。

 「ドンドンはしたらダメだからね!人に迷惑はかけたらいけません」

 テンションが上がると暴れだすルーを嗜めてから窓の外を眺めて見る。

 そろそろ太陽が沈む時間なのか、海をオレンジに染めていてなんだか感動してしまう。

 異世界にも太陽があって沈んでいくのかと、それを目の当たりにできるのが嬉しくなった。

 綺麗な夕焼けで感動しつつ、先程女将さんが言っていた子供の行方不明が気かかる。

 もし子供達が誘拐されていて、あの村で結界を張らされていたように、悪意ある誰かの術の犠牲になっているとしたら、またどこかで魔虫か魔獣が無理矢理出現させられていることになる。

 ここに犯人がまだいるのか、もう何処かへ移動しているのか…不明だけど探して見る価値はある。

 孤児院なんて格好の標的だし被害者がいるのではないだろうか?ニコたちの件もあるので慎重に探る必要がある。

 明日から積極的に動くことにして、今日はゆっくり休むことで旅の疲れを癒すことを優先することにした…。

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