第23話ニコとティムの秘密
俺たちは村を出た後、また森の中を通って南の街へ向かう事にした。
森の中の方が食料調達がしやすいし、人目につきにくいからルーが幼児に見合わない魔法を使っても大事にはなりにくいから少し安心だ。
ニコもティムも暫く一緒にいた年上の子供達が、笑顔で村の復興の為に働いていたのを見れて、自分のことの様に嬉しそうにニコニコしている。
「嬉しそうだな〜二人とも」
「うん!だってみんなすごく楽しそうに笑ってた!」
「だよね!みんな幸せになれるでしょ?それがすごく嬉しい!」
いい子達だな〜と感心しつつも、自分達が彼等にとって重荷になっていたのを敏感に感じとってしまった故の苦しさからの解放も合わさっているんだろうなと少し切なくなる。
「…彼等が森の中で大変だったのは、二人のせいではないんだよ?だから、全然気にしなくていいし、自分達が幸せになる為に考えて行動して行こうな?」
彼等の事情は、親から捨てられたらしいとしか聞いてないのでわからないが、少なくても普通の子供ではないのだろうなと俺は思っている。
何しろ子供達に出会って一緒になる前に、危険な森の中で幼い二人だけで無事に過ごす事ができたのだ。
それに、感受性にとても優れていて人の感情を読み取るのが上手いし、たまにロボと会話して意思疎通をしているようにもみえるので、もしかしたら獣の感情もわかるのかもしれない。
「本当に?僕たち自分の幸せを願っていいのかな?」
「もちろんだよ。話したくないなら話さなくていいけど、二人は本当に親から捨てられたのかな?その割には二人からは負の感情が感じられないし、どっちかと言うととても愛されてたように見えるんだけど…」
二人と共にいる時間が増えることで気がついたのだが、幼いのに食べ方も綺麗だし、自分の気持ちを言語化するのもわりと上手い方だ。隠しているみたいだが、魔力の操作も実は一緒にいた子供達より上手にできるようだし、それに自分達を捨てたらしい親に対しては強い悪感情がみられない。これらは、きちんと親から愛されて、しつけられたから結果だろうと思うからだ。
「……母さんから誰にも言うなって言われたんだ。僕達は捨てられたって言えって…そうすれば、きっと誰かが助けてくれるからって…」
「でもね、それは本当のことじゃないの…僕たちはお父さんもお母さんも大好きだし、一緒にいたかったけど、うっ…僕達捨てられてなんかないよ…」
二人が泣き出してしまい慌てて慰めるが泣き止んでくれない。二人をいじめて泣かせたと判断したのか、ルーとロボ、ロシナンテに何故かシュールまでもジト目で俺を見つめるので、とても気まずい…
「そんな目で見ないでよ!あぁ、ごめんね辛いことを思い出しちゃったかな?うん、わかったよ、二人はご両親に愛されていたんだね。でも、離れ離れにならないといけなくなっちゃったんだね…それは、悲しいよね」
二人を抱きしめると、しっかりと首に抱きついてきたのでこのまま二人を抱えて移動する。
ルー達は未だに俺を疑った目で見ているが、二人を慰める事を優先したのか、ロシナンテの上から小さな手を伸ばして「なかないで〜だいじょうぶよ〜」と言いながら背中を撫でている。
二人の涙も止まり、落ち着くと二人は自分達のことをゆっくりと話してくれた。
♢♢♢
二人の母親は早くに両親を亡くした孤独人間で、父親は放浪していた冒険者で獣人と人間のハーフだったそうだ。
母親は父親の事情を知ったうえで恋に落ち、結婚したのちに双子を授かった。
それが、この二人だ。
本来の獣人の子は、生まれた時は獣の姿で徐々に人型をとるようになるのだが、獣人の血が薄まった二人は獣の姿ではなく最初から人間の姿で生まれてきた。ただ、人間の母親にとっては普通の妊娠出産より母体への影響が大きく、二人を出産後母親は衰弱してしまい、ベッドから起き上がれなくなってしまったらしい。
そのかわり父親が育児を率先して行い、村の人も気にかけてくれていたし、母親も二人をとても愛してくれたので、二人はスクスク大きくなったが、村に魔獣が出現した事によって事態は大きく変わってしまった。
獣人のハーフである父親は獣の姿の方が、戦闘力は上がる。家族と村の人を救う為に隠していた獣人の力を解放し魔獣と死に物狂いで戦い辛うじて倒すことができたのだが、助かった村人は獣人の父親に感謝するのではなく、嫌悪を丸出してお前のせいで魔獣が出現したと責め立てた。
村人にとっては、人間ではない獣人は恐怖の対象で自分達は騙されていたのだと頑に拒絶してしまったのだ。
魔獣との戦いで既に、瀕死な状態だった父親の命を奪い、子供達も殺そうとしたが、母親が命掛けで庇って二人を逃してくれたそうだ。
あまりに悲しく壮絶な体験をしてきた二人をどうしたら心から幸せになってもらえるのか、考えてもわからない。
自分達の事情を話してくれたのは、俺たちを信用していいと判断してくれたからだと思うと、その信用を裏切りたくない。
このまま二人を連れて旅を続けた方がいいのか、それとも誰か信用がおけて二人を丸ごと愛してくれる人を見つける方がいいのか、俺には正解がわからなかった。
「話してくれてありがとう。頑張ったね。確かに村のような閉じられた小さな世界だと、モノの見方や考え方が歪んだり、固まってしまったりしやすいのかもね。そうなってしまうのは、とても寂しくて、かわいそうな事なんだよ。でも君たちは、お母さんが命をかけて村の外にだしてくれた。これからは、村では一生かかっても見れなかった事や感じた事もないような体験をすると思う、それはとても貴重で幸せな事だよ。だから目一杯楽しんで経験して行こうね」
そう言って、二人を抱いた腕の力を強めると、まだ涙が乾いていない状態だったが、二人は笑って頷いてくれた。
小さな一歩でも進めばきっとたどり着けるところがある。休憩したっていいし、遠回りしたって問題ない。
大事なのは歩を止めないことだし、せっかくなら楽しまないと人生が勿体無いからね!
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