第22話村の復興活動

 オタクの兵士が文字通りすっ飛んでいったので、俺たちは予定通りに村で休んでいく事にした。

 ニコ達にも手伝ってもらいながら、夕食の支度をして便利アイテムではない簡易のテントを張る。暫くは不便だが、いつこの村にあの熱血オタクの兵士が戻ってくるかわからないし、余計な詮索をされたくはないからだ。

 準備が整って、いざ食べようとした時に朝別れた子供達がボロボロになった状態で現れたので慌てて出迎える。

 仲間割れしてしまった女の子達もいて、どうやら全員揃って村にたどり着くことはできたようだが、その道のりは険しかったらしい。

 「どうしたんだ?ボロボロだな…とにかく全員で村に戻ってこれてよかったな」

 疲れ切ってへたり込んでいる子に肩を貸し、場所を移動させていると、魔虫はいないが、家も村人もいない村の様子にどう反応していいのか迷ったような表情で子供達は当たりを見渡しながら着いてきた。

 「俺たちが村についた時からこの状態だよ。でもロウム帝国の飛空団の人達も救援要請を受けてきてくれたんだ。だから、他にも助かった村人がいたはずだし、彼らは村の復興に手を貸す事を約束してくれたから、後は君たちの頑張り次第だね」

 そう言って彼らの顔を見渡し、側にいた子の肩をポンと叩く。

 疲れ切って、体も心も休息を求めている今は、何を言っても不安ばかりが浮かんで前向きに考えられないだろうから、食事を取らせたら早々に休ませる事にした。

 

 翌朝、「お腹が空いた」と元気なルーに叩き起こされ、起きてすぐに朝食の準備をしていると、子供達も起きてきた。

 「おはよう。よく休めた?」

 「おはようございます。はい、やっぱり村は落ち着きますね。ぐっすり寝れました。」

 昨日に比べて幾分スッキリした表情をしているので、その言葉に嘘はないみたいだ。

 彼らにも手伝ってもらうことで、手早く出来た朝食を皆で食べる。

 俺たちが去った後の事を聞いてみると、最初は、話し合い通りに本当に男子だけて出発したので、女子達は相当慌てたらしい。急いで後を追いかけてきてこれまでのことを謝ったので、一緒に村に戻る条件として、今後は自我を押し通す事なく、皆を困らせないできちんと話し合いに応じる事を約束させたのだと言う。 

 女子に押されて、言いなりになっていた彼らとは別人の様にしっかりしていて、頼もしくなっているなと感心してしまった。

 「そこまでは本当に良かったんですけど、途中で獣に遭遇してしまい、僕たちでは逃げるので精一杯だったんです。誰も死なないで良かった…」

 森の獣は、魔法が多少使える程度の子供では対処できないものも多くいるので、正直今まで無事でいれたのは運が良かったに過ぎない。

 「森の危険さがよくわかっただろ?安易に森で過ごそうとしないようにな」

 「はい…そうします。この村…みんな無くなっちゃたな…本当に俺たちで何とかできると思いますか?」

 「…相当難しいことだってことは言われなくてもわかってると思う。でも、絶対にできないことでもないよ。あの兵士さんの熱意と言葉は信じていいと思う。それにね、この村はすごいね、この大木には精霊が宿っているんだよ。精霊がいる村なんて何処にでもあるわけじゃない。本当に特別なんだよ?この木と精霊を大切に守っていけば、村はきっと以前の様なやらぎを与えてくれる場所に戻るさ」

 大木を見つめて、精霊の存在を教えてあげると、彼は何かを思い出した様にハッとして大木を見上げ、そっとその幹に手を触れて感謝の言葉を呟いた。

 「爺ちゃんが言ってたんです。この木には精霊様が宿っておられるから大切に守っていくのが村人の役目なんだって…ずっと村人で守ってきたんだって…俺たちがその役目をこれからも受け継いでいきます」

 そう決意を込めて宣言する子を精霊が優しく微笑んで見つめている。

 この姿が村の子達にも見えたらよかったのになと思いながら俺はその様子を眺めていた。


 ♢♢♢

 

 俺はかなりオタクの本気を甘く見積もっていたらしい。

 彼等が飛び去ってからまだ1日も経っていないのに、もう準備万端で戻ってきた。

 子供達が村の復興に向けて意見を出し合って話し合っている最中に、大型の飛龍が何体も現れたので、子供達がパニックになっている。

 そんな事には構わず、飛龍は次々と着地したら人と荷物を置いてまた飛んでいった。

 残った人の中に昨日話した熱血オタク兵士がいたので、恐る恐る近づき、一応確認の為これはどういうことか問いかけると、満面の笑みで竜の英雄の思し召しにより村を復興させ聖地とするのだと目をキラキラさせ胸を張る。

 その気迫に押されて困惑している俺に、オタク兵士の隣にいた兵士が苦笑いしながら、補足してくれた。

 「村の復興は当たり前なんだけど、ここは竜の英雄が自ら浄化し守った土地になったからね。その事はいずれ知れ渡り、利用しようとする輩が村に押し寄せたり、どさくさに紛れて悪事を働こうとする者も現れるだろう。だから、先手を打って帝国が聖地化して保護するんだよ」

 「…なるほど、竜の英雄の存在は、時に商売としても利用価値があるんですね…」 

 ルーはまだ小さいから本能で動きやすいんだよな…気をつけないと正体がバレてやりづらくなりそうだ…。とぼんやり思う。

 「残念ながらね、彼等の存在は遥か昔から語られている。どの国にも属さないが、この世界に訪れる悪を懲らしめ、滅する為に、強大な力を惜しみなく奮ってくださる。敵対する国同士だとしても彼等を崇める気持ちは同じだからね。だから一部のよくない輩からすれば彼等の存在は金のなる木のようなものなのさ」

 「…そんな不届き者は、殺せばいい」

 不穏な呟きにギョッとして、視線を向けるとやたら座った目をした兵士がブツブツと殺す殺すと言っていて、怖すぎる…

 俺が震えていると、物騒なことを呟く同僚の頭を思いっきり引っ叩いて正気に戻させ、誤魔化す様に笑いながらその場から去って行った。

 「アレがヤンデレというやつなのだろうか…?すごいな…ガチ勢には逆らわない方が身の為だ…」

 とにかく、ロウム帝国にとってもこの村は利用価値があるのだろう。兵士達の士気は高いし、労働力としては申し分ない力を発揮してくれている。

 魔法や魔導具を使用しているようで、あっという間に幾つもの家が建ち、丘の上には頑丈が塀と見張り台ができている。

 子供達から以前の村の様子も聞いてある程度は参考にしているので強い反発も無いし、元の村人が最優先されることを法的効力を持つ魔法文書で発行しているのが心理的に安心感を与えてくれたようで、子供達も積極的に手伝っている。兵士たちは親を亡くした子供達に優しく指導し、彼等が少しでも早く安心して暮らせるようにと休憩もろくに取らず作業を続けていた。

 ほとんどの兵士はまともで真面目なのだが、あの熱血オタクに負けずとも劣らない竜の英雄マニアが他にも幾人かいて、ちょっとしたカオスが生まれている。

 興奮して言い争っている内容が、≪竜の英雄の像≫を何処に建てるかだった。

 しかも、どうやら火竜、水竜、土竜、風竜のどの英雄達を建てるかで争っているらしく、姿を見たことがないくせに、よく4組いる事を知ってるなと感心していると、すでに彼等は各地で伝説の英雄としてそれぞれが語り継がれていて出身地などで兵士達の好きな竜の英雄が違うらしく、どこかで微かでも竜の英雄の要素を嗅ぎ取ると、ああやって誰が降臨したのかを揉めていると一人の兵士が親切に教えてくれた。

 口論はヒートアップしてきて今にも手が出そうな雰囲気で見てるとハラハラするが、「それは団のご法度なのだから大丈夫。とにかく口で言い負かす為に罵り合っているんだ」そうだ。

 そこは先輩も後輩も上司も部下も無く、ただ自分の憧れの竜の英雄の像を立てる為に戦う戦場なので誰も一歩も引かない熱い舌戦が繰り広げられている。

 巻き込まれるのは勘弁なので、俺という竜の英雄の嘘の目撃者がいる事を連中が思い出す前にトンズラする事にする。

 あのアホな連中はともかく、他はまともなのだから村の心配は要らない。きっと早々に復興も完了し、難を逃れた村人も戻り、笑い声の絶えない村が戻ってくるだろう。

 

 子供達にこっそり別れを告げて村を出る。

最後に振り返って見た子供達は、兵士たち共もに働きながら、アホ達の舌戦を面白そうにみて笑っている。彼等の顔には憂いは無く、訪れそうな明るい未来に輝いていて楽しそうだった。

 

 彼等のこれからにはたくさんの幸運が訪れますよに…!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る