第21話オタクの愛は世界共通

 結界に捕らえたれていた大木の精霊を解放した後、疲れて寝てしまったルーを抱えてニコたちのところへ戻る途中、村の様子をザッと見てみる。

 ルーの炎で魔虫に操れていた村人の死体は完全に消え去り灰さえ残っていない。家などの建物に擬態していた分はそれこそ建物そのものがなくなっていて、随分スッキリした空間になっている。

 魔虫に襲われた生々しい形跡はどこにもなく、寧ろ清々しい空気に満ちてどことなくキラキラしていた。

 村を囲む塀や柵などは見当たらず、元々は随分平和な暮らしをしていたのだろう。森に近く、大木精霊もかなり力があったので、その恩恵で澱みを抱え込まず浄化ができ、実り豊かな生活が出来ていたのだ。

 精霊が力を貸すと言ってくれた今、時間は少々かかるかもしれないが、またそれなりに豊かな暮らしができる様になるので、森から帰還してくる子供達には、村の再建を目指して皆で力を合わせて頑張ってほしいなと思う。

 

 村から姿を現した俺たちをニコとティムは笑顔で両手を振って迎えてくれた

 「お帰りなさい!よかった無事で…」

 「村から心地好い風が吹いてきてぼくらの気分も良くなったんですよ!」

 二人は次々に元気よく話し出すし、ロボも尻尾をブンブン振って俺の周りをウロウロして喜んでくれている。

 「ただいま、留守番ありがとうな。ちゃんと村の浄化も終わったよ。これでこの村はもう安心だろう。帰ってくるアイツらが頑張れば森で山賊紛いの事をして暮らすよりも充分豊かな暮らしができるさ」

 「…そうなんだ…」

 ニコが安心したようにホッと呟くので頭を撫でてやると、嬉しそうな笑顔をかえしてくれた。

 「体力がまだ戻りきってないアイツらだと、ここに着くまでもう少し時間がかかると思うし、ルーも寝てるから今日は村で休んでいこう」

 ニコ達を連れ、再度村へ向かっていると、足元に大きな影がいくつもでき、頭上を猛スピードで飛龍が通過して行く。 

 咄嗟にニコ達を引き寄せると、ロボが庇う様に前にでる。 

 飛龍は戦隊を組んで規則正しい飛行をしているので、もしかしたらどこかの国の飛行隊なのかも知れない。ここに来たと言うことは、村の悲劇から逃れた人が救援を呼ぶ事ができたのだろう。

 死体が動くとか魔虫が巣食っているなんて国としても看過できるものではない。村一つと放って置いたらとんでもない結果を招くのは目に見えている。

 なかなか迅速な対応じゃないか?と上から目線で評価していると、一頭の飛龍が俺たちに気がついて降りてきた。

 「ニコ、ティム。いい子だから暫く黙っているんだぞ?いいね?」

 二人にこの村で起こった事を話されてしまうと厄介な事になるので申し訳ないが喋らすわけにはいかない。

 俺たちの様子から警戒を感じ取ったのか飛龍から降りた人は、両手を上げて危害は与えないとポーズをとると、ゆっくりと近づいてきた。

 「私たちはロウム帝国の飛龍団よ。貴方はこの村の子かしら?助けにきたのだけど、聞いていた話と状況が違う理由を知っているかしら?魔虫の発生と動く死体を見た?」

 ロウム帝国とは何処にあるのか、ここが帝国内の村なのかもわからないが、助けにきたのは確からしいし、もしかしたら村の復興にも手を貸してもらえるかな、と考える。

 とりあえずはルーが全部片付けた事は知られたくないので、他の共有者がやったことにして適当に話をしておこう。

 「俺たちはただの旅人です。ここではない別の村の出身ですが、残念ながら魔獣に壊滅させられたので逃げてきたんです。」

 「そう…それは残念ね、最近魔獣の被害が多くて帝国としても手が足りず助けられなくてごめんなさい」

 俺の作り話に丁寧に頭を下げる兵士に驚くが、自分の職務にとても誇りを持って望んでいるのが伝わり好感が持てる。

 「いえ、同様な目に合ったのは俺たちだけではありませんし、命が助かっただけでも十分恵まれていますので、気にしないで下さい」

 そうかえすと、一瞬だけ強く目を閉じ微かに頭を下げてから再度質問を投げかけてきた。

 「…ここは魔虫が発生し、村が壊滅しただけでなく、魔虫に殺された村人の死体が動いていると救援要請が届いたのよ。でも、着てみたら魔虫どころが、人工物そのものが無いし、とても澄んで清らかな気が辺りを覆っているわ。救援が誤報とは思えないのにどう言うことかしら」

 「俺たちがここに着いた時には、確かに魔虫もいたし、死体も動いてましたが、何処から現れたのか冒険者風の二人が全部まとめて倒してしまいました。魔法で一気にです。そして、大木の精霊が捕われて気を澱まされているから魔虫が発生したと説明してくれたんです。彼らは精霊を解放して全てを浄化したらまたどこかへ行ってしまいました。」

 俺が適当に説明すると、二人の冒険者風辺りから話を聞いていた兵士の顔が、どんどん赤く興奮していき、浄化の辺りで最高潮に達したらしく大声で「竜の英雄だわ!」と叫びだした。

 あまりの興奮とそのネーミングに引いていると肩とガシッと掴まれて揺さぶられる。

 「貴方、竜の英雄に会ったのね!ああ、この地を救いに降臨してくだされた!ならばこの地は聖地として守っていかなければ!」

 よくわからないが、最推しに興奮しているオタクみたいなことを言っている。

 「そうよね!ここまでの美しい浄化なんて竜の英雄以外にできるはずないもの!ああ、羨ましい!後ろ姿だけでも拝見したかった!何故もっと早く来なかったのかしら…く、や、し、いぃ…」

 今にもハンカチを引きちぎりそうな勢いで嘆いているので、俺どころかニコ達もドン引きだ。俺の足に震えながらしがみついている。だいぶ怖いらしい…

 「竜の英雄かは知りません。彼らは名乗りませんでしたから、でも、この地の精霊を守り村を復興してほしいと言ってました」

 そう告げると、目をカッと見開いて俺を凝視したので、俺もチビリそうになる。

 「…確かにそうおっしゃたのね…?」

 あまりに静かにでも眼光鋭く聞くので、腰が引けて震えてしまったが、何とかしっかりと頷き「はい」と答えることができた。

 俺の肯定を聞くと、また静かに目を閉じ深呼吸をしたと思ったら大声で

 「命に代えて謹んで拝命致します!」

 と宣誓して飛龍に乗って勢いよく飛んでいってしまった。

 

 …え?これ大丈夫なの…と物凄く不安になるが、最推しの言葉はオタクにとって神の言葉と同義だろう…その愛と情熱をかけてきっとやりきってくれると目を逸らしつつ、信じる事にした。

 

 

 

 

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