第11話今日からあなたも冒険者

 気がついたらベッドで寝ていた。

 衛藤によるスパルタ解体授業がハード過ぎて気絶したようだ。

  血と吐瀉物に塗れていたのに体も清潔で着替えられていたので面倒をかけたらしい。

 それにしても、このスパルタが今後も続くのなら冒険に出る前に精神の方が先に壊れるのでは?と震えてしまう。

 ある意味でさっさと飛び出したらしい他の共有者が正しかったのかも知れない。

 慎重になるのも大事だが、それ故に知ってしまった恐怖を思うと、時に未知なる物にノリで飛び込んだほうが、感じる恐怖はちいさいのではないだろうか?

 狩りの要領と解体は何とかなりそうなのだから、さっさと使命とやらを果たしに出て行った方がまだ精神安定上いい気がする。

 今日で、ゆとり男子としてはかなりレベルアップした気もするし、とつらつら考えていると、扉が開き衛藤がルーを連れて部屋に入ってきた。

 「あ、起きたんですね。気分はどうですか?」

 慌ててベッドから身を起こし頭を下げる。

 「あの、すみません。すげー迷惑かけましたよね?泣き喚いて気絶なんて、その本当にすみません」

 「こっちこそごめんね。いきなりはやっぱりキツイよね。急ぎ過ぎたかなってちょっと反省した」

 全くその通りなのだが、大人なのでちゃんと繕う。

 「いえ!そんなことないです。この世界で生きていくならどれも必要不可欠でした。避けては通れません。」

 「ありがとう。狩りと解体ができればこれからの旅でかなり楽になるからね。しばらくは肉も見たくないかもしれないけど、技術は磨くんだよ?」

 「…精進します」

 「しょう、もうげんき?」

 「元気だよ、心配かけてごめんな?」

 駆け寄ってきた、ルーを抱き上げて子供体温にホッと息をつく。

 「あの、まだまだ本当なら覚えないといけないことがたくさんあるんでしょうが、あとは実地で学んでいこうかな?なんて思ってるんですけど、どうでしょう?」

 将の突然の申し出に、衛藤はにやりと笑う

 「逃げたくなる程キツかったですか?」

 「いえそういうわけでは……ハイ…精神が先に死にそうです。」

 「ぶはっ、正直ですね!でも、魔法の使い方にしても将さんは僕達とは違うから実地で学んでいくほうが、理にかなってるのかな?やってみないとわからないですもんね」

 「色々未完のうちに行くのは不安はあるんですけど、なんか今行かないと逆に冒険するってことが怖くなり過ぎて外に出れなくなりそうな気持ちもあるんです」

 「そうだね。リアルに想像できると感じる恐怖は倍になりそうだよね。よし、じゃあ準備をしようか!用意するからついて来てね。着の身着のまま放り出すなんてしないから安心してよ?」

 「はい、ありがとうございます!ルーお望みの冒険に行くぞ!」  

 「きゃー!!るーいくよ、ぼうけんするよ!」

 嬉しそうにはしゃぎ出したルーをつれ、衛藤のあとにつづいて部屋を出る。


 つれて行かれたのは物置にしている部屋のようで所狭しと物が乱雑に置かれている。

 使用不明の物体のあり少し不気味だ。

 衛藤は置かれている物を適当に手にしては選別していく。

 「日用品類はコレと、あれも必要か…移動手段もどっちがいいかな…」

 しばらくは、ブツブツ言いながら目当の物を探しているのを入口でルーを抱いてボケッと見ていたが、手伝う為にルーを下ろして近寄る。

 ルーは興味深々に部屋を見て回っていたが、どうやら気になるアイテムを発見したらしく釘付けになっている。

 それは、小さな黒猫のぬいぐるみで、つぶらな瞳はルーと同じ鮮やかなブルーだ。

 衛藤もその様子に気がついたらしく、ぬいぐるみを手にとりルーに渡してくれた。

 「気に入ったのなら、持っていく?ただのぬいぐるみなんだけど、共有者の一人が猫不足を嘆いて作ったんだよ。その後、猫科の猛獣を手懐けたからお役御免になったんだけどね」

 ……猛獣って手懐けられるのか…?

 職業が猛獣使いだったのだろうかと思考をとばしていたが、ルーは満面の笑みでぬいぐるみに頬擦りしている。

 「るーのよ!しょうおなまえは?」

 「ええっ?名前も付けるの?」

 ぬいぐるみを抱きしめて戻って来たルーに名付けを要求され困惑する。

 「ルーがつけてあげた方が猫ちゃんも喜ぶと思うよ?」

 「ほんと?」

 「うん。どんなお名前でもルーが一生懸命い考えたなら絶対に気に入ってくれるよ。だってルーが見つけたんだからね」

 頭を撫でてあげると、エヘヘと笑いさらに強くぬいぐるみを抱きしめる。

 うんうん唸りながら名前を考え始めたルーが邪魔にならないように抱き上げ、衛藤の方を伺うがどうやら目当の物はあらかた見つけたらしい。

 「よし、これくらいかな?」

 「どんなアイテムなんですか?」

 衛藤が選び出したアイテムは数十点あるが、どれもそれほど大きな物はない。

 「キャンプと言うか、サバイバルに必要な魔導具なんだけど、共有者同士でアレコレ好き勝手に作り出したんだよね。だけど、あいにく特殊な金属とか技術で作ったから、箱庭の人間達にとっては再現不可能の代物で争いの元になるだけだから僕たち共有者だけで使用してるんだよ 」

 「物騒ですね。ってゆーか皆さん好き勝手し過ぎでは?」

 「そうかな?結構苦労したんだよ?エンシェントにも協力してもらったから、異次元バックだって完成させたんだよ!これ有ると無しでは全然違う!」

 コレ!と嬉しそうに少し大きめのスコッシュを掲げる。

 「この中なら時間の概念も重量も関係ないどんどん入れてokさ!でも、時々中身を確認しないとダメだよ?何を入れたか結構わすれるんだよね」

 「中身のデータは別に記録されないんですか?」

 「それは無理だよ。あくまで超技術で作り上げた異次元バックだもん。時空間魔法なんてエンシェント以外は使えないしね」

 「そうなんですね。でも、皆さんのおかげで俺らは随分楽に冒険できそうでありがたいです。」

 「そう言ってもらえると作ったかいがあるな〜次はこれかな」

 衛藤が手にしているのは傘のような代物だ。

 「これ広げるとテントになるんだよ。しかもかなり広めで快適さを追求した自信作」

 

 一つ一つアイテムの使用方法を説明しながら異次元バックに入れていき、ハイッと手渡される。 

 「次は食料を確保しに行こうね」

 移動の最中に腕の中のルーに聞いてみる

 「ルーどうだ?猫さんのお名前決まったか?」

 流石に自分で決めるのは早過ぎたか?とちょっと焦ったが、どうやら思いついたらしく胸を張って頷かれた。

 「なんてお名前にしたんだ?」

 「しょーる!」

 「もしかして、将さんとルーの名前を混ぜたの?」

 「うん!るーのしょーるなの」

 可愛すぎると衛藤ともだえていたら、ショールと名付けられたぬいぐるみがにゃーと鳴く。

 「「...?...」」

 「しょーる、おへんじ?」

 「にゃー」

 「衛藤さん、これどう言うわけでしょう?ぬいぐるみのはずでは?え?動くの?」

 鳴声だけでなくルーの腕の中で本物の猫のように動き出したぬいぐるみに目が点になる。

 「いやただのぬいぐるみの筈なんですけど?よくわかりませんが、悪い物ではないですよ。きっと…」

 視線を逸らしつつ言われると不安になる。 

 しかし、ルーが大喜びしているので今更取り上げられない。

 

 どうやら俺たちの冒険に1匹加わるようだ。

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