第10話押し売りは結構です。

 笑いの発作もおさまったのか、衛藤が興味津々に将に尋ねる。

 「ねぇ!会話もしてるよね?声も聞こえてるの?というか、精霊王はマッチョなのか〜意外だったな」

 また吹き出しそうになっている。

 「もしかして、衛藤さんには姿が見えてないんですか?声も聞こえていない?」

 精霊王(仮)を伺い見て問いかける。

 「うん。僕には、バスケットボール大の光る玉に見えてるね。以前、エンシェントが精霊王って言ってたから、そう認識してるけどね」

 <共有者だから俺の存在は感知してるけど、流石にハッキリと見聞きすることができないんだろ>

 「…俺もそっちがよかったな。なんで見えるんだよ」

 ぼそっと呟いたのを聞き止めたのか、美女が威圧的に見下ろしてくる。

 <何が不満なの!私たちを拝めるなんてとっても光栄なことでしょ?喜びなさいよ>

 「不満ではないですよ。ただ、此処は俺の常識外の世界です。共有者という同郷の仲間と違うのはそれだけで不安になります」

 美女の目を見て言い返すと、彼女は驚いたように目を丸くした。

 <…特別が良いのではないの?特別な才能として天から与えられたもので他と違うと誇らないの?>

 「いやそれだと自分を過大評価し過ぎで逆に危ないヤツですよね?これは個性の範囲では?」

 <……そうね、個性か…ふふいいわね!気に入ったわ>

 「ありがとうございます。それより特殊ってどういうことですか?俺は魔法が使えないんでしょうか?」

 気になっていたことを質問するとあっさり使えると言われて拍子抜けする。

 「はぁ〜よかった。よし、じゃあ魔法の練習だな」

 <兄ちゃん案外図太いな、俺らを見聞きできるのはどうでもいいのかい?>

 「いえ、そういうわけではないですよ?気分を害されたのならすみません」

 <他の共有者達は、みんな放出系の魔経路で魔力を体外で操作するのに長けているのよね。と言うか、人間では放出系の魔経路しか見た事ないわ。貴方は逆ね体内に自然の気を取り入れて操作する身体強化系なのね、特に視力と聴力が長けているのね>

 「え?それって体外では操作できないんでしょうか?」

 <大きな攻撃魔法は無理だろうな!まぁ気にすんな自分を強化して戦えばいいだろ!>

 「え、衛藤さん俺…攻撃魔法は無理だって言われたんですけど…これ大問題では?」

 「?どう言うこと?」

 衛藤に精霊王たちから得た情報を伝えると彼も驚いたようだ。

 「直接って結構エグいな、魔法というワンクッションがないのは敵を倒すのに精神的にキツイだろうな」

 衛藤の言葉に想像してみて吐きそうになる。

 敵や獲物をある程度、距離をとって倒すのと、自分の力で倒すのでは生々しさが全然違う。

 「…む、無理だ…酷すぎる。こんな仕打ちをなぜ俺だけ…」

 ガクッと膝をつき項垂れた将にルーが近寄り頭を撫でてくれる。

 「いいこね。だいじょうぶよー、るーがまもってあげるよー」

 見かけ年齢2歳に慰められて、嬉しいやら恥ずかしいやらで頬が熱くなる。

 気合を入れ直し、ルーを抱き上げ立ち上がると、感動したように目を潤ませた衛藤と美女が視界に入る。

 <健気ね!なんて可愛いドラゴンなの!>

 「アー!可愛い!いいな、いいな〜」

 「恥ずかしい…すみません、みっともないですね。」

 「大丈夫だよ将さん。そんなの当たり前だよ。でも生きてくために肉を狩るのは決して悪ではない、仕留めた命を余すことなくいただくことが大切なことでしょ?それにどんなに数をこなしても命を奪うことに快楽は得られないよ。いつだって申し訳なく感じる」

 「はぁ…そうですね。肝に銘じます。」

 <厄介な感情だな?弱肉強食は自然界の掟だぜ?あっちこっちで戦を仕掛けて殺し合ってるくせに人間ってヤツは訳がわからんな>

 精霊王の言葉に苦笑いを溢し、強化魔法の使い方をマスターするほうへ意識を切り替える。

 「やれる事をやるだけだ。よし、どうすれば身体強化ができるでしょうか?」

 <そうね〜自分の魔力を今は頭に感じてるのよね?>

 「頭というか、正確には目の奥ですね」

 精霊王は将の目を覗き込み、頷く。

 <目にうっすら陣が浮かんでる。魔力を感知した時、無意識に強化魔法を発動させたんだろ。今、感じている魔力を強化したい場所へ流してみな>

 ルーを衛藤に預けて、早速やってみる。

 集中するため目を閉じて、まずは足に力を込めるようイメージしてみる。

 (血管を通して魔力を足へ流すのはどうだ?うん、いい感じだ。両膝下が熱くなってきたぞ、う〜んまだ弱いなもう少し熱くならないか?)

  意識的に呼吸を深くゆっくりする。

 (お!いい感じだ、だいぶ熱いぞ)

 熱がたまったので、目を開けてみると足に魔法陣が浮かんでいた。

 グッとしゃがみ込み一気にジャンプをしてみる。

 「ぎゃー‼︎ちょっ!たかっ高い!えっ?うわー落ちる!」

 想像以上のジャンプ力で地上から50m程に到達したが、すぐに落下する。

 なんとか両足で着地したが、衝撃で痺れが脳にまで到達した。

 <ほーなかなかいい感じだな?コツは掴んだか?>

 「すごいジャンプだったね!なるほど、使い方次第で色々できそうだね」

 「あ、ありがとう…ございます…」

 確かに強化の仕方はわかったが、どのくらいの威力になるかはこれから試していかないといけないだろう。

 想像以上に力が出るのだから適度な加減を覚えなければ使えない。

 (繰り返し練習するしかないか…)

 <そうね〜威力については使っていくうちに慣れるでしょう頑張ってね>

 「はい…がんばります」

 「じゃあ、実際に狩りをしてみようか。丁度そう遠くないところにモウギュウがいるね」

 衛藤の言葉に尻込みするもやらないわけにもいかない。

 「どの辺でしょうか?俺にはよくわからないんですけど。」

 <耳の強化をしろよ。鳴声とか足音とか聞き分けるようにさ>

 「うっ、はい。やってみます」

 耳に魔力が流れるよう意識してみる。

 確かに、直線距離で東へ1kmほど離れた位置で数頭の動物が移動している音が聞こえる。

 その事を伝えると、衛藤が満足そうに頷く

 「正解。よし、行ってみよう」

 

 あたりの様子を確認しながら深い森をかけわけ獲物がいる場所を目指す、耳と目、足への強化、で既にかなりの疲れを感じるのに、横を飛んでる美女からは気のせいだと一蹴された。

 精霊王からは強化された力に道具が保たないだろうから、指先を強化して首を落とせと言われる。

 はじめてなのに、ハード過ぎて泣く。

 この時点で既に心が折れそうなのに、少し開けた草むらで発見したモウギュウは5頭もいてモンスターかと疑う容貌をしていた。

 確かに、牛をだいぶ大きくした見た目だが、牛はあんな大きな牙を持ってはいないし、角だってあそこまで大きく鋭くないはず、オマケに毛がハリネズより太くトゲトゲしいのがいただけない。

 「衛藤さん…アレは牛ではありません」

 「牛みたいなもんだって、細かいことは気にしないで。ほら、行っといで!」

 将のもっともな反論は捨て置かれる。

 「るーもやるよ!」

 ドラゴン姿になったルーが勢い良くモウギュウへ飛んでいく。

 「ほら! 将さん早く!ルーが倒しちゃう」

 衛藤に背中を押され、気合を入れてモウギュウへ向かう。

 既にルーが炎のブレスを吐き一頭のモウギュウを焼き払っている。

 攻撃され興奮したモウギュウが勢いよく、こちらに突進くるので、慌てて身体強化をし衝突寸前に首を落とす。

 肉と骨を断つ生々しい感触に胃から迫り上がってくる感覚を必死に押しとどめ、次から次と襲ってくるモウギュウに立ち向かう。

 気がつくと全てのモウギュウは倒れていてその傍らで、血塗れで荒い呼吸を繰り返していた。

 濃い血の匂いに目眩がするが、いつの間に側に来たのか衛藤が次は解体だよ、と重々しく告げる。


 この後、衛藤による恐怖のスパルタ解体教室が開催され、将は吐いても、泣いても許されず意識朦朧になるまで叩き込まれ、5頭の解体が終わった瞬間に気絶してしまった。

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