第9話魔法って?考えるな、感じろ
ドガッと何かに腹を蹴られ、目を覚ます。
「クッ、痛い…なんだ?」
寝惚けたまま布団を捲ると、腹に小さな足が乗っていて、どうやらこの足の持ち主に蹴られたらしい。
「うむ…夢じゃなかったのか…」
寝相の悪いルーを元の位置に戻しながら、自分が異世界に本当に来てしまった事を受け止める。
「満員電車で通勤しなくて済むのは、ありがたいかな?今、何時位だろ?」
ベッドから降りて、カーテンと窓を開ける。
途端に目に入る光景の美しさに息を呑む。
眼下に広がるのは、緑豊かな森とその先にある湖だけで人工的な物は何一つない。
しかも、森の木々はどれも大きく立派でその存在感に圧倒される。
遠くまで見渡せるので、だいぶ高い位置にいる事に気がつく。
「山に造った洞窟神殿って言ってたっけ、それにしてもスゲーな。ここだけだと、そこまで異世界って感じはないな」
ひと時、風景を堪能していると、ルーが起きた。
「ブハッおはよう、寝癖がひどいな」
爆発したような寝癖を丁寧に撫で、挨拶をする。
「おはよ」
「まだ眠いなら、寝ててもいいぞ?」
「おきる!だっこ」
「よし、じゃあとりあえず食堂に行ってみるか」
着替えもないので、そのままの姿でルーを抱き上げ、食堂へ向かう。
着いた先には、既に朝食が終わったらしいエンシェントが、優雅に紅茶を飲んでいた。
「おはようございます。すみません。遅すぎましたか?」
「おはよ!」
ルーも腕の中で元気に挨拶をする。
「おはよう。いや、問題ないぞ。ゆっくり休めたか」
「はい、ぐっすりです。衛藤さんは?」
「おはようございます。起きたんですね。今朝食をお持ちしますね。食べますよね?」
奥から衛藤が姿を現し、朝食の有無を確認される。
「あっ、おはようございます。はい、お願いします。」
朝食を食べながら、今日やる事を確認する。
「ぼうけんいく?」
どうやらルーは、すぐに出発したいらしく、小首を傾げ見上げてくる。
昨日の説明で、なんとなくこの
食事だって、食料を狩ることから始めるなんてハードルが高すぎる。
技量の基礎くらいは学びたい。
「お願い!もう少し俺に時間をくれ!必ず冒険に行くから!ね?お願いルーくん」
懇願すると、小さな口を尖らせて眉を寄せてる表情は不満そうだが、一応了承してくれた。
「なら森で魔法と狩りを実践で覚えていきましょう。すぐに慣れますよ!…命の危機を感じたらね」
最後にボソっと怖い事を呟く。
顔が引きつるが、お願いしますとしか言えない。
早速、服を着替えて、ルーと共に連れて行かれたのは、昨日みた地獄門(仮)だ。
「転移門だよ。島の中には獲物がいないからね。湖の向こうに行こう」
「あの…これを潜るとあの苦痛を感じるのでは?」
「世界を渡るならともかく、すぐそこだし大丈夫だよ?体に異変は感じないよ」
衛藤の手から放たれた、淡く光る小さな魔法陣に反応して扉が開くと、さっさと行ってしまう。
その後を少し警戒しながら続いて扉を潜ると、深い森の中にいた。
「うわー!スゲー!これが島の外ですか?本当に転移したんだ」
リアルどこで○ドアに感動する。
振り返ると、大きめ岩があるだけで扉はないが、よく見ると岩にドラゴンの紋章が刻まれている。
ルーも興味深く辺りを見渡しトコトコと大樹の元に向かう。
その姿を確認しつつ、魔法の授業に集中する。
「大丈夫だったでしょ?さぁ、始めようか」
「はい!よろしくお願いします!」
「いいかい?魔法はセンスだよ!」
「??」
意味がわからず、いきなり混乱する。
「…アレ?伝わらない?」
お互いにキョトンと見つめ合う。
「…うーんなら、まずね?魔法は自分の魔力で自然の気をコントロールすることで発動する。その威力の差異は、自然の気の量によって変わるんだ。魔力量が多いほど、扱える自然の気の量が増える。ただ、魔力量や属性は人や種族によって異なっていて、持って生まれた才能みたいなもん。」
「…なるほど?…」
「いまいち伝わってないか?あのね?見ててね」
そういうと、衛藤は人差し指を立て、そこに蝋燭程の炎を灯す。
「これは、自然の
少し炎を大きくしてみせ、瞬時に消した。
「自然の気の中には属性があるんですね。自分の属性魔法しか使えないって事ですか?」
「使えなくはないけど、より多くの魔力とコントロールが必要になるかな?」
「つまり魔力が多ければ力技で対応できるって訳ですね?」
「うん。僕たちは現代科学の知識があって、現象のイメージがより鮮明にできるのが強みになるね。属性を組み合わせるのもおもしろいよね」
「そんなこともできるんだ!」
「だから、センスなんだよ。魔力が少なくたって使い方を変えれば充分強い魔法が使える」
「センス…」
「そうだよ。流れを理解したら後は難しく考えないで慣れだよ、慣れ。じゃあ、魔力を感じることからスタートするよ」
実践あるのみ、とさくっと進める。
目を閉じて右手を出すよう言われ、衛藤に右手を握られると、握られた右手からじわじわと温かい湯が包み込んでくる感覚がしてきた
「わかります?今、将さんの体に僕の魔力を流しています。」
「はい。じわじわ全身を包み込まれます」
「正しく魔力を感じているね。次は、自分の中を探ってみて、集中してよ、熱を持っている部分があるはずだよ。」
じっと感覚を研ぎ澄ますと、確かに目の奥辺りが熱くなるのを感じる。
予想では、丹田辺りだと思っていたので、ちょっと戸惑う。
「あの〜、頭っていうか、目の奥が熱く感じます」
「え?目?う〜んそうか、okわかった。もう目を開けていいよ」
衛藤の回答に若干の不安を感じつつ目を開ける。
その途端、目に入った光景に、腰を抜かしそうになる。
「うわぁ!ちょ、ちょっとなんすか!あなた誰ですか?ゴツいな!」
目の前に、興味津々と見つめてくる筋肉隆々の半裸のマッチョがいたのだ。
その隣にはルーの手を引いて、呆れたようにマッチョを見る美女の姿もあったが、マッチョのインパクトが強すぎて気付くのが遅れた。
<見えるのかい?ふ〜ん、いいね、面白くなってきたじゃねぇか>
「え?あの…こわい…じゃなくて、どなたですか?」
「将さん、見えてるの?精霊王の姿」
どうやら衛藤にも見えているらしい。
「せいれいおう…?このマッチョが?」
「マッチョ??すごいな!人型がみえてるのか!」
「?はい筋肉隆々のマッチョとルーと手を繋いだ美女が見えてます。」
<あら〜正直ね❤️そうね美人なお姉さんよね>
美女が嬉しそうに身を乗り出してくるので、大きく何度も頷く。
圧の強い美女には逆らってはいけないのだ。
衛藤といえば、将の返事を聞いて笑いだしたので場が混沌としている。
<初めてだな人間が俺たちの姿を認識するなんて、おめぇ何もんだよ。こんなところでなにしてんだ?>
「はぁ、その…そこのドラゴンの魂の共有者です。昨日、箱庭に来たばかりで今は魔法を習っています。」
<あら、なら貴方は特殊なのね。魔力が身体強化に振り分けられてるんだわ>
「…どういう意味ですか?」
不穏な流れに真顔になる。
異世界転移なら魔法くらいはまともに使わせてほしい …
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