第17話めんどくさいなぁー(怒)
年長者達は自分のことで手一杯だったらしく、幼い二人が未だに汚れたままだったので今回はルーにクリーンの魔法をかけてもらうことにする。汚いのが年長者なら放っておくが、まだ人の手を借りないと不便なことが多い幼い子が相手なら話しは別だ。だって、どうみても二人は6歳以下の年齢に見える。
ルーのクリーンが体だけじゃなく、服の汚れも完璧に落とし、スッキリ爽やかにしてくれたので二人は大喜びでルーに御礼を言ってくれた。
その喜びようが余程嬉しかったらしくルーはかなり照れて俺の足にしがみつき顔を隠すという珍しい行動をしている。
ルーを抱き上げ顔を覗き込もうとするが、首にしがみついて顔を見せてくれない。本気で照れているみたいで、微笑ましい。
俺がルーをかまっていると、気の強そうな女の子が文句を言ってきた。
「クリーンが使えるなら私たちにも使ってくれれば良くないですか?一瞬で綺麗になるならあの苦労はなんだったのよ!」
その言葉にルーがビクッと反応したので、その背をゆっくり撫でてしっかりと抱きかかえる。
「どうして俺たちがそこまでしてやらないといけないんだ?君たちは山賊行為ができるほど元気だろ?自分の事くらい自分でめんどうみなよ」
そう言い返されて、顔を赤くして女の子は黙り込んだが、更に何かを言う前にもう一言付け加えておく。
「大体、幼い子には助けが必要だろ?君たちが自分を優先した結果、もう湯も無いし、水も汲みに行かないといけない。
それともその汚くて冷めた湯で洗えって言うのか?」
「何で家族でも無いのに幼いってだけでこっちが面倒見ないといけないのよ。それくらいの子なら自分ことは自分でできるわ!水汲みもできないなら最後で十分じゃない」
「…そう、あのね?それは俺のセリフだよね?家族どころか知り合いですらない君たちへ俺は確かに手を貸したよ?でも何をして何をしないかは俺が決めることだ。君達にはそれを拒否する権利はあってもアレコレしろって俺に言う権利はないんだよ?」
「あの!すみませんでした。この子は今の状態を受け入れられなくて、それに貴方に不潔だと思われているのが嫌だっただけです。
それで、あの子たちがあっさり着ている服も綺麗にしてもらえたのが気にさわっただけです」
「…だからなに?許して、君たちにも同じ事をしろとでも?今回魔法で綺麗になったとしても次からはどうするの?もしかして、ずっと俺に集るつもり?勘弁してくれよ…俺がただのお人好しで、利用できる馬鹿とでも思っているのか?はぁ…とにかく飯にしよう。話しは飯を食ってからだ」
ルーを抱いたまま、幼い二人を連れて移動すると少し離れて文句を言いつつ彼らもついてきた。
人からの親切を何故か当たり前と受け止めもっともっとと際限なく求めてくる奴がいるが、何様ですか?聞きたくなる。
それにしても、この二人をここに置いていくのは少し不安になる。他人同士の集団生活では弱者がストレスのはけ口になりやすいし、子供は時に残酷だ。最悪の展開にならないとも限らない…悩ましい…
煮込んだ具沢山のスープを適当に皿に盛り幼い子達から食べさせる。
「熱いから火傷しないようにな?ゆっくり食べろよ?」
ルーを挟んで座って顔を紅潮させながら食べる様子は見ていて和む。
年長者たちにも順番に渡すが、スープを受け取る際の態度で俺に対して、女の子達が明かに不満を持っていることに気がつく。
どうやら、自分より幼子たちが優先されているのが気に入らないらしい。
見るからに不機嫌です!という空気をだして自分たちの機嫌をとれと遠回しに訴えかけてくる。
平時ならともかく、この状況で常にあの態度ならば、男の子たちも余計な揉め事を起こさないように我慢して彼女たちを優先してきたのでは?そういえば、思い返してみると、この中で火の魔法を使えるのは女子だけで男子は土魔法のみだった。
ぱっと見は火の方が利便性があるので発言力が強くなったのかなと思う。
ルー達の食事を補助しつつ、彼らの様子を観察しているとこれは長く持たないなと感じる。押さえつけてきた不平不満がいつ爆発してもおかしくない空気が流れている。
彼女達の態度に思うところがあるのだろう、皆微妙に距離をとっている。
…もうほっといて先に進んでもいいかな?
めんどくさくなって放り投げたくなったが、親切に対してきちんと感謝の念を持ち行動できる子もいる。その子達を見捨てるのは目覚めが悪い、彼らはこの先どうするのかを聞いてから考えるか…
彼らの食事が終わったら、寝ている子達のところへ食事を持っていく。近くにいて率先して片付けを手伝ってくれてた子たちに声を掛け鍋と皿を持ってついてくるように言う
「わかりました。鍋ごとですね?」
「うん。どれくらい食べれるか、わからないからね」
虚につき、中の様子を伺うとどうやら目が覚めているようだ。
「あ、よかった〜目が覚めたかな?はじめまして将って言います。君たちの仲間に助けを請われて手を貸したんだよ」
見知らぬ男の出現に怯えと戸惑いを感じるがお構いなしに中に入っていく。
「お腹は空いてる?食べられるならこれを食べてよ、体を起こせる?」
一人一人補助して身を起こさせ体調を確認するが、3人共体力の低下はあるが、他に目に見えて悪い所はなさそうだ。
「あの、あなたが助けてくれたんですね?目が覚めたら、ずっと感じてた虚脱感がないし、体もスッキリしいていて驚いたんです」
「それならよかった。あとは食べて落ちた体力を元に戻しなよ?君達、食べるの手伝ってあげてよ」
本当に体調は良くなったらしく、食欲もあり、だされたスープはきちんと完食できた。
食事も無事に食べ終えたので、単刀直入に聞く。
「一体どうして君たちはここにいるの?」
「…村に、村に突然魔虫が出現したんです。
空を黒く埋め尽くす数であっという間に全てが飲み尽くされました。」
寝込んでいた子が、当時を思い出したのか苦しそうに話始めてくれた。
「本当にいきなりで自分の身を守って逃げるので精一杯で…家族が結局どうなったかはわかりませんが、無事とは思えません。」
「ここにいるのはみんな同じ村の出身かな?」
「えっと、いえ全員ではありません。森で生活を始めてしばらくして、何処からきたのか幼い兄弟を見つけたんです」
「あの子達だけが別なのか…」
「チビ達は違う村の出身だけど、アイツらの村は魔獣の被害を受けたみたいです。貧しくて生活できなくなった親に森に捨てられたそうです…元々貧しい暮らしをしてた人は魔獣に襲われるとさらに生活が苦しくなって…それで子供を捨てる親は結構いるんです。特に幼い子はその後、無事に育つかわからないから奴隷としても買い手がつかなくて金にならないから…」
うーん、捨てたくて捨てた訳じゃないのかな?でも、兄弟二人を捨てたんだよな…元から貧乏で生活に苦しかったのだとしたら、なぜ産んだ?とは思う。
子を産むのは親が選択した結果だ…だって子供は親を選べない、子がどんなに生まれたいと願ったとしても、最後の産む産まないの選択は親に託される。貧乏で愛しか与えられないのなら愛を最大限与えて欲しい。
すごく悲しくて、虚しいな…
「……そうか、うん事情は理解した。あのね?まず、君たちが倒れたのはこの森に長い間いたせいで魔力過多になったから、だからこのまま森に居ればまた倒れるし、今度も運良く助かるとは保証できない。今は大丈夫な子達もそれは同じだよ?」
「……森にいられない?」
「うん。このままここにいるのは緩やかな自殺と同じだね」
「死にたい訳じゃないんですけど、どうすれば…」
「ちゃんと自分で考えるんだ。自分の事を他人任せにしていると後悔するよ?自分の気持ちがわからないのに、それを他人に教えてて欲しいなんて言われても無理だよ」
「…そうですね、はい!その通りです。よく考えてみます」
「そうだね。仲間と話し合いもしっかりね」
俺が彼らに今後のことについて話し合うように進めていると、外から甲高い叫びと子供の泣き声が聞こえてきて咄嗟に駆け出した。
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