第16話汚れを落とせ!先ずはそこからだ
号泣しているので、一先ず落ち着かせてからやる事をやらせる。
何せまだまだやる事はたくさんあるのだ。
「少しは落ち着いたか?泣いてる暇はないぞ?日が高い内にやれる事はやっておかないといけないからな」
「すみません、本当にありがとうござます。あの、なんでもします言ってください!」
「…この子達はとりあえず目を離しても大丈夫だろう。次はお前達だな、ほら行くぞ」
まだ、泣いているが無理矢理外に引っ張りだし仲間の元へ連れて行く。
湯を沸かしているという現場を見て呆然とする。
なんと、3人が魔法で鍋に向かって炎を当てているのだ。竈とか焚火とか彼らは思い浮かばなかったのだろうか?
「おぉ、これはまた斬新な方法だね…」
「えっと、おかしいですか?」
あの行為に何も疑問を持っていないような質問に苦笑いが漏れる。
「竈って知ってる?土魔法使える子がいるって言ってたよね?」
「かまど?はぁ…あの、土魔法は俺も使えます」
それならと、一生懸命に湯を沸かしているのを一旦やめさせて竈造りからはじめる。
「ありがとうな、魔力をかなり使っただろ?少し休んでいいぞ?」
ただでさえ、限界だろうに薄めたポーションを飲んだだけで、魔力をあれだけ使えば魔力不足に陥り今度はこの子達がたおれてしまう。
適当な場所に少し大きめの竃を幾つか造る事にした。今度の竃はレンガ仕様で造ることに決め土魔法が使えるやつらを呼ぶ。
「土魔法が使えるのは、4人かそれだけいれば問題ないな、いいか?魔法でこんな形の硬い石を造れるか?」
試しにレンガを造ってみると、皆不安そうに多分と答える。
「できないなら無理はしなくていいぞ。そのかわり、木の枝をたくさん拾ってきて欲しい。」
別の仕事を用意すると、自身のない子は枝拾いに進んで行くことにしてくれたので任せる事にする。
退屈してきたのだろう、「ルーもやる」と近寄ってきたので、お願いしてみたらすごい勢いでレンガを増産してしてくれた。
「ルーありがとうな、すっごく助かった!これだけ有れば十分だよ」
あっという間におわったので、レンガ造りをしていた子達は目を丸くしてルーを見ている。どうみても幼児なので驚くのは当たり前だろう。ルーは彼らに向かいえっへんと胸を張り自慢気だ。
出来上がったレンガを積んで竃の形を整えしっかりと魔法で補強すれば完成だ。
余ったレンガは、何かに使えるだろうから端に寄せとこう、枝拾いをしている子達と入れ違いになるといけないので、山賊もどきの子達は全員留守番させて、ルーと共に狩りに出ることにする。
「お前達はここで休んでろよ?腹も減ってきたから狩りに行ってくる。いいか?入れ違って行方がわからなくなると面倒だから何処にも行くなよ?」
念を押して言い聞かせ、行動を開始だ。
獲物を求めて、耳や目を強化する。10キロ程森の奥に何かの群れが移動する音が聞こえたので、ロシナンテに乗り全力で走らせる。
白狼も追走してきた。付近まできたらロシナンテから降り、体全体を強化して獲物を確認する。
鹿に似たツノを持ち、体の大きさは馬くらいある動物がいたのだが、これは食べられるのだろうか?白狼を見ると、尻尾をブンブン振りつついつでも襲い掛かれる態勢で身構えている。
いけるらしいので、GOサインを出すと全力で獲物に向かって走り出し、背後から飛びのり襲いかかる。
定めた獲物の首を狙って食らいつき、全体重をかけてぶら下がる。哀れな鳴き声を上げ倒れた鹿もどきが完全に動かなくなるまで白狼は牙を外さない。
俺も一頭に向かって走り、強化した上で風属性を強固に纏った手で首を落とす。
2頭も穫れば充分だ。その場で解体して処理をする。
ルーも勿論参加したがったが、ドラゴンブレスは獲物が真っ黒焦げになるので今回は我慢してもらう。不満そうに唇を突き出しているので、鹿もどきの血で汚れた白狼と俺にクリーンの魔法をかけて欲しいとお願いしたら、やる事ができて嬉しかったのか、はにかんでいいよと、さっとやってくれた。
「じゃあ、戻ろうか。戻り道にキノコや木の実がないか探してみよう」
ロシナンテに乗り帰り道では、鼻を意識的に強化して植物系の食材を探してみる。
甘い香りのみずみずしい桃のような果実と幾つかの薬草を発見してほくほくで戻ると、全員で出迎えてくれたが、彼らの視線は白狼に積まれた肉に釘付けで目が爛々としていた。
「おっ!木の枝もたっぷりだな〜これだけ有れば足りるだろ、始めるぞ!」
竃に鍋をセットし、下に木の枝を組んで魔法で火をつける。
「火が消えないように、適当に枝を追加してくれ」
二人ほどに火の番をさせ、そのほかにはもう一度水を汲みに行ってもらう。
「とにかくお前たちは自分を洗え!その為には水をもっと汲んでこい。綺麗になったら飯を食わしてやる」
ひもじい思いをしてきたのだろう、ゴクリを唾を飲み込み彼らは水汲みに走って行った。
それぞれに仕事を与えたら料理をはじめる。
自分の持ち物から野菜類をいくつか取り出し、肉を合わせて下処理をする、あまり食べていなかった彼らにいきなりガツンとしたものを食べさせるのは消化に悪く、胃が受け付けないだろう。
具材を小さくカットして食材が溶けるくらいじっくり煮込む料理をたっぷりと用意する。
味付けもなるべく薄めでちょっと物足りないかなくらいが丁度いい、余ったら味付けを変えれば2度楽しめる。
「あの…湯が沸きました。これはどうするですか?」
あらかた調理が終わり後はとにかく煮込むだけになった時、恐る恐る声をかけられた。
「お疲れ様、そういえば君たちの中に女の子はいる?」
「…あの、私が女です。あと二人います。」
びっくりしてまじまじと見てしまう。
髪は脂ぎっていてフケもあり、顔すらしばらく洗っていないように見える。年頃の女の子は見た目を気にすると思っていたので、ここまで酷い見た目になる前に川で水浴びぐらいはしそうな気がしていた。
彼女は、俺の戸惑いを侮蔑と感じとったのか、怒ったようにこちらを睨みつけてきた。
「ごめんね。不快な思いをさせたのなら謝罪するね。でも、君たち流石に汚すぎない?水浴びぐらいはできたよね?」
「それは!着の身着のまま逃げてきたんです。この服以外は持ってないし、水は冷たすぎてそのまま浴びるなんて無理でした。」
「…わかった。本当なら服を洗って煮沸消毒くらいはして欲しかったけど、裸で居させるわけにはいかないね」
彼女を連れ、沸かした湯の元へ向かう。
新たに水を汲みに行った者たちも戻ってきていて全員いるようだ。
ルーの水浴び用として持たされたプールを出してそこに水とお湯を混ぜて適温にする。
「全員が風呂に入ることはできないけど、顔を洗って、体を拭くくらいはできるだろ?湯が汚れたら交換してとにかく少しは綺麗になること。本当なら頭から水をかけてやりたいくらいなんだからな?」
「服は、どうしますか?」
「?替がないっていってたよね、今から洗濯しても乾かないだろうし、仕方がないからそのまま着てなよ。でも、近いうちにちゃんと洗った方がいいよ?結構、臭うからね」
新たな鍋をセットし、湯の入った鍋を持ってルーを連れて病人のところに向かう。
クリーンを使ってやれば簡単だが、彼らの中に使える者がいないのなら、自分たちが去ったあとまた困ったことになる。
魔法以外の方法を知り、実行しないと意味はないよなと思う。
それに、この先もここで生きていくなら、山賊行為以外に生きる方法を見つけなければ全員が野垂れ死ぬことになる。
彼らはそれを理解しているのだろうか?
入口付近に作った小型の竃に火を入れ空の土器をセットする。レンガ作りの時にどさくさで作っておいた物だ。土器の中を水で満たすようルーにお願いする。
持っきた湯の入った鍋を傍らに置き、寝ている彼らの様子を見る。
呼吸も深くしっかりできているし、顔色もいいのは薄めたポーションがゆっくりと効いているからだろう。
「うん、順調に回復中だね。」
手に膜を纏うように魔力を流し、湯の中に入れてみる。上手く作用していて温度は感じない。
「膜張れてんじゃん!よしよし、いいね〜後は、おしぼりを作ってっと」
ぎゅうううと、タオルを絞ったら広げてさっと風を通す。軽く顔に当てて温度を確認したら、子供たちの体を拭く。一人を終わらせたらすでにお湯は真っ黒だ。
それでも繰り返し、汚くて臭かったのが、少しはマシになったので良しとする。
竃のおかげで肌寒かった虚の中も暖かくなり、過ごしやすくなった。
汚れた湯を捨て、温めた土器の湯を鍋に入れ、土器の中にもう一度水を入れてもらう。
今度は鍋の湯にポーションを混ぜ、絞りきらないようにして怪我をした患部を拭う。
直接振りかけるよりは緩やかに治ってくるだろう。
処置を終え、竈の火を調整して虚の中が暑くなりすぎないようにしてから、外に出る。
ルーが空の鍋を持つというので、お願いしルーのペースに合わせてゆっくり戻ることにした。
戻った先でみたのは、喧嘩をしながら体を拭いたり、裸になって体を洗っている彼らの姿だった。
どうやら余程汚いと言われたことが効いたのか、皆躍起になって洗っている。
湯の汚れ具合からどれだけ汚かったのか見せつけられショックを受けたと言われて笑った。
「汚れにも、臭いにも慣れちゃったから気にならなかったけど、体を拭いた途端に色が変わるからギョっとしました。自覚したらみんなも洗いたくてしょうがなくなって…」
体を拭いたのは数ヶ月ぶりらしくそりゃあスッキリするよなと思う。
「休んでる子たちも体を拭いておいたよ。順調に回復しているから後で食事を持っていってみるね」
そう言うと、口々に良かったと言い、中には涙を浮かべた子もいた。
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