第15話フラグは回収されるもの
なるほどなって思う。
精霊王と山賊の話をしていたが、あれはいわゆるフラグというヤツだったのだ。
だって今現在、自分たちはその山賊に囲まれている。
ただ、その山賊たちは、みすぼらしく不潔な装いで、構えている武器は錆びてボロいお粗末な代物、しかも枝のように細い手足は転けただけでも折れそうで明かに栄養失調にみえる。
これは、山賊もどきなのでは?顔を隠しているが、声は幼く女性でないなら、声変わりもしてない年齢の子供たちだろう。
アシヌスに乗る、若い男と幼児の旅人は彼らにとってはなんとかなりそうな獲物だったのだろうが、ことはそんなに甘くない。
ルーは突然現れた山賊もどきにキョトンとしているが、白狼は彼らの気配に気づいた途端に隠れて後ろに回り込み、いつでも襲撃できる準備をしている。
「助けて欲しけりゃ、に、荷物を置いていけ!そうすれば、命だけは取らないでいてやる!」
そう言われて「はい、わかりました」というバカがいるのだろうか?
教育的指導をしてやりたいが、彼らは一発強めに殴ったら死にそうだ。
さてどうしたもんか…と悩んでいると、ルーが、えいっと片手を振り上げ風魔法を発動させる。
俺たちを囲っていた山賊もどきを突風で吹き飛ばし、「るーやったよ」と自慢げに胸を張る。
潜んでいた白狼も形無しだろう。
「うん…躊躇はするなって言われてたし、山賊行為はよくないことだよな…ルー君良く出来ました!エライね」
間違ってないなら、褒めるべきだろうと頭を撫でると、嬉しそうにテレテレしている。
このまま放って置いてもいいだろうが、それで死なれるのも目覚めが悪い。とりあえず隠れていた白狼を呼び戻し、気絶している彼らをロシナンテと白狼の背に乗せて場所を移動することにした。
聴覚を強化し他に仲間がいないか確認してみると、2キロ程遠くから幼い子供達の声だけが聞こえてきた。
どうやら大人はおらず、年長の子供たちが襲撃し彼らを養っているのだろう。
世知辛い世の中だな…
気分が滅入るが、彼らをアジトまで運んで詳しく事情を聞いてみよう。
改心する様であれば、手助けもする。
手遅れなら……さて、どうしようか…
そうでないことを願うことにしますかね。
たどり着いた場所は、少し奥まったところにあり大きな木が密集していて根本付近には大きな穴が開いていた。
その穴から小さな子たちが怯えた様子でこちらを伺っているのがわかる。
(そりゃ怖いだろうな…知らない男が狼を連れて仲間を運んできたんだから…)
わかるが、幼い子に恐怖の表情で見られるのは心が痛む。
これ以上近づくのは、あの子たちの恐怖を煽るのだけなので、ここに彼らの仲間を下ろす。
一人一人脈や呼吸に異常が無いか確認し、ゆっくり起こすことにする。
水で薄めたポーションも用意しておく。
「お〜い、起きてくれない?起きてくれないと俺が悪者になりそうなんだけど」
軽く揺すったりしていると、ルーが元気よく「おきて」と張り手をかまし始めた。
その威力に叩かれたヤツらが飛び起きる。
「おっ、さすがルー君の張り手だな。これで起きないヤツは死んでるだろ」
「なんだ?!あっお前は!どういうことだ俺たちをどうする気だ!」
状況がわからず、混乱しているようでそれぞれが怯えていたり、文句を言ったりと忙ない。
「落ち着けよ、殺す気ならとっくに殺してるよ。ここはお前らのアジトだろ?チビたちが怯えてるから宥めてほしい。事情聴取はそれからだ」
いつの間にか、アジトに運ばれている事にも驚き彼らの顔にはハッキリと恐怖が浮かぶ、それぞれが怯えながらも言われた言葉を吟味しているようだ。
「ほら、これ飲んで…毒じゃないよ、試しに俺が飲むから信用してよ」
警戒していたが、薄めたポーションを飲ませてやると、体を襲っていた不調が消えたのだろう、勢いよく「これを分けてほしい、病気の子がいるんだ」と言う。
「わかった。でも病気が酷い場合は逆に助からない場合もあるからな? 俺にもその子の様子を見せて欲しい。いいか?」
「…あんたは見ればわかるのか?俺はあいつらを助けたいんだ!」
「ポーションも治癒魔法も本来持っている体の治癒能力をあげて治すもんなんだ。体力や生命力が落ちているところで急激に治癒力を上げると生命力の方が尽きてしまう。だから少量ずつあたえて、体力と同時に治癒力を上げていかないとダメなんだ」
「…わかった。こっちだついてきてくれ」
案内されたのは、木の虚でそこでは3人の子供達が土の上に布を敷いただけ状態で寝かされていた。
どの子も意識がないのか、ピクリとも動かない。
微かな胸の上下だけが、彼らが生きているの証だろうか。
「酷いな。怪我もしてるのか…このままじゃ助からないな…ちょっと待ってろ準備するから」
ソワソワと落ち着かなげにしている、山賊もどきをしていた年長者たちには、やる事を与えることにしよう。
「お前ら水はどうしてる?何処かに川でもあるのか?」
「ああ、その先に小川あってそこに汲みに行ってる」
「火はおこせるか?」
「えっと、魔法を使えるよ」
「よし!なら水をたくさん汲んで、そして湯を沸かすんだ。それとは別にお前たちも湯を使って体を清潔にしろ。不衛生は病気の元だからな。いいなさっさと動けよ?」
「あの、容器が無いんです汲むのも沸かすようも…」
恥ずかしそうにそう告げてくるので、こちらの持ち物を貸す事にする。
「…これを使ってくれ。いいか?君たちを信用して貸すんだからな?」
「っ!ありがとうございます!行ってきます」
彼らが走っていくのを見送り、こっちも準備を始める。
「ルー、少しの間ショール達とここで待っててくれる?俺の目が届かない場所には行かないでね?できるかな?」
「うん!できるよ!ここにいるね」
「いいお返事だ。白狼もルーを見ててね」
そう言うと、ルーの隣で寛ぎ尻尾を振る。
今だに怯えている様子の小さな子をこれ以上は怖がらせないように慎重に近づきなるべく優しい声で話しかける。
「こんにちは、俺は将って言うんだ。よろしくね。君たちはどこか体が痛い所は無いかい?」
「………だいじょう、です…」
「本当に?心配しないで痛いことはしないからね?」
そう聞くと、二人は顔を見合わせ、困ったように呟いた。
「…お腹が空いてるの…でも、病気じゃないから我慢できる」
「そうか、ちょっと待っててね。よければあそこにいる子供と遊んでくれないかな?狼は絶対に噛まないから怖くないよ」
「本当に?噛まないの?」
「うん。賢い狼だからね大丈夫なんだよ」
「…いいよ」
「ありがとう、あの子はルーっていうんだよろしくね」
適度な距離を保ちつつ、ルー達の元へ戻る。
基本的にルーは人見知りをしないのですぐに仲良くなるだろう。
その間に、病人達の看病と料理を作るとする。
「よしやるか!」
まず、寝かされている子供達をよく観察してみる。
確かにかなり弱っているが、今きちんと対処すれ命は助かりそうだ。
どうやら魔力過多と体力低下による風邪が合わさった状況なのではないかと思う。
この世界の人間は魔力を持っている。
魔力は自然の
魔力を蓄える器のようなものは人それぞれ大きさが違うのだろう、何せ容量にはかなり個人差があり、オーバー分は体内に蓄える事ができず、排出(魔法を使用)しないと最悪死に至る。
そして、この森だ、ドラゴンの恩恵をうけ自然の
例えるなら、深部は常に大雨が降っていて、外に向かうほど雨の量は減ってはくるが常に降っている、外にコップをおいておけばいずれ雨でいっぱいになり溢れるだろう。
この子達もその状態なのだろ。
元々、容量が少なめな容器だから、降り注ぐエネルギーで直ぐにいっぱいになってしまい、排出が上手くできていないため器ごと壊れそうになっているのだ。
この状態でポーションを与えると魔力も一緒に回復してしまうので更に危険な状況に陥ってしまう。
容量をオーバーした分をきちんと排出させる事ができればいいのだが、本人達の意識で魔法の使用は無理だろう。
「俺に他人の魔力を操作するなんて高等技術ができるかな…」
試して失敗したらこの子達に止めをさす事になるので躊躇してしまう、他の方法をひねくり出す。
「…魔導具はどうだ?確か使用者の魔力を使って使用する道具もあったはず!」
異次元スコッシュから目当の物を探し出し、試してみる。
一番症状の重い幼い子に小型の持ち運び型ランプを持たせて明度を強でスイッチを入れる。
「おお!眩しい!ちゃんと明かりがついたぞ。よし、このまましばらく様子をみて問題なさそうなら他の子にも使ってみよう」
その間この不衛生な場所も軽く綺麗にして、病人がゆっくり養生できる環境をつくらねば、治るものも治らないと思う。
まずは、風魔法で空気の入れ替えを試したが、放出系はやはり想像通りの魔法にならない。仕方がないので自分の掌に風を纏わせて吹き飛ばしていく事にする。
「いいじゃん!掃除機の逆バージョンだな!…うわっやべぇ、調子に乗った土埃が酷い」
空気の入れ替えだけで疲れたが、なんとか澱んで篭った臭いもクリアになってスッキリした。
次は、寒さと乾燥の対策を兼ねて部屋の入り口付近に小さな竈を作る。
これは両手に土属性を纏わせて直接造形していく、サクサク粘土をこねるように整えると、かなりしっかりしたものがイメージ通りに作れた。後は実際に使用してみるだけだ。
魔導具を使って魔力を排出していた子の様子を確認すると、青白いかった顔色に赤みが少し戻っている。どうやら上手くいったようなので、他の子達にも同様に対応し、次の段階に進ませよう。
この間、採取後に試し作ってみた<妖精の献身>の漢方バージョンを自分以外で試してみたいが、ここまで弱っている子供で試すのは良心が痛む、まずは既存のポーションをだいぶ薄めて効果を弱くさせたものを使うことにする。
そうこうしている内に、水を汲みに行かせた年長者達が戻ってきた。
「あの!水をたっぷり汲んできて、今みんなで湯を沸かしています。あとはどうすればいいですか?」
自分にできることは他にないか、と必死な目で訴えかけられ考える。
「大変だったろ?ありがとう、湯がわいたらまずは自分たちを清潔にしてほしい。君たちの様子を見るとクリーンの魔法を使える子はいないんだろ?」
あえてお前らは汚いと告げると、さぁっと顔を赤くして俯かれる。
「……はい、使えません。火と土の魔法は使えるのやつがいるんですが、水と風がいなくて…」
「うん、ごめんな?怒っているわけじゃなくて事実の確認なんだ。詳しくは後で聞くし話すけど、この子達をこれ以上苦しめないためにも生活環境を少し整えないといけないからな」
「治りますか?一番小さいのがもう2日も目覚めないんです。他の二人も今朝から意識がないんです」
「ほら、見てみろよ。顔色がだいぶマシになったろ?もう少し休ませれば目も覚めるだろ。安心しな、もう大丈夫だよ」
寝ている子達がよく見えるように移動し場所をゆずると、慌てて顔を覗き込んでいる。
「本当だ…よかった…治るのか」
余程心配で苦しかったのだろう。大粒の涙を流して喜んでいる様子が俺の胸を締め付けた。
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