第14話どこに向かう?
苦労して解体した蛇の肉を白狼達に分けてやり、彼らに別れを告げその場を後にするが、1匹の白狼が俺たちの後をついてきた。
その子が、蛇に締め上げられた若い狼だと気がつき、首を撫で仲間の元へ帰る様に促すのだが、俺たちの元から去ろうとしない。
「どうした?仲間達行っちゃうぞ?」
仲間達の姿はもう見えず、このままだと一人ぼっちになるのでは?心配していると、様子を見ていた精霊王が、気楽に問題ないと言う
「そいつはきっと独り立ちの時期なんだろ。白狼はある程度成長したオスを群れの外に出す習性がある。どうやらお前らと一緒にいたいみたいだな?懐かれたじゃねぇか」
精霊王の言葉を聞いて、一応、白狼にも確認してみた。
「俺らと一緒に行きたいのか?森の外を目指しているんだけど、連れてって平気でしょうか?」
尻尾をブンブン降っている白狼の頭を撫で、質問をしてみる。
連れて行くのは構わないが、懸念事項もあるので確認は必要だろう。
何せ成長すれば、人間には脅威の大きさになるので討伐されては困る、森の外はこの子にとっては危険な場所になる可能性がある。
「う〜ん。白狼は上下関係がしっかりしていてリーダーの命令は絶対だし、知性が高いから貴方がしっかり面倒見れるなら問題無いと思うけどね」
「信頼関係で結ばれる場合は問題ねぇよ。この森で生きていけるだけの能力があれば、森の外の脅威なんて屁でもねぇ」
彼らの言を信用するなら、どうやら外に連れても大きな問題にはならない、冒険の仲間に加わってくれると俺としても心強いと思う。
「なら一緒に行くか?ルーこの白狼も冒険の仲間なってもらってもいいかな?」
既にルーにとっては大きすぎる存在だが、幼児の見かけでも中身は最強のドラゴンだ。
一切物怖じせず、白露の首に抱きつきいいよーと返事をする。
どうやらモフモフ加減が気に入ったらしい。
「ドラゴンに抱きつかれて平然としてるんだから、この子も大物よね」
美女が笑って付け加えた。
「いいね、いいね!順調に仲間を増やしてんじゃねぇか。俺もついて行きてぇけど、流石にそれはできねぇ。あぁ、残念だぜ」
白狼の背にルーを乗せ、俺は自身の足を強化しロシナンテを引いて歩き出すが、精霊王は悔しがって地団駄を踏んでいる。
「精霊王が側にいてくれれば、色々安心ですけど、無理は言えませんね」
ほっとけば勝手について来そうな気もするが、それを想像しても楽しいだろうなと思うだけだ。
「ああ、俺がただの精霊なら問題ないんだがな〜、王なんてつまんねぇ存在だぜ」
「よく言うわよ!今だって十分勝手にしてるくせに!」
このまま放っておくとケンカが始まりそうなので、間に割って入り、この先の事を聞いてみる。
「蛇から逃げ惑っていたので方向がわからないんですけど、この先に人の村とかあります?急ぎじゃないけど、人の暮らしも見てみたいんですよね」
口論しそうになっていた二人は、その質問に少し考え、そうねと話し出す。
「最初は多分西側へ向かっていたけど、今は南に向かっているわね。この先もずっと南へ下って行けば結構大きめの町があるわ。その途中にも小さな村が有ったけど、今も有るかしら?村だと一匹の魔獣でも結構あっさり壊滅する事があるのよね」
「壊滅しただろ…アレは魔獣というか、魔虫だな大量発生したからこの森にも襲ってこようとしやがった!まぁ、返り討ちにしてやったがな!」
「そうだったわね。アレ一匹の強さは大したことないのに量が凄いのよね、生物も無機物も関係なく貪り尽くしてしまって迷惑だったわ」
魔獣だけでなく魔虫、虫の大量発生なんて想像するだけで気持ちが悪い。
「最近、魔獣の発生が増えたって聞いてますが、そんなに増えたんですか?」
「頻度は確かに増えたわ、でもね一番困ったのは魔虫の存在なんだと思うわ。貴方なら十万単位の魔虫と一匹の強い魔獣どちらの方が対処しやすい?」
「圧倒的に魔獣ですね…」
「そうでしょ?飛ぶ魔虫はより厄介で被害地域が拡大しやすいのよ」
「なるほど…理解しました。ルーのブレスみたいに威力の強い魔法が効果的なんですよね?俺みたいな身体強化は数で来られるとキツイな」
「おう、気を付けろよ?油断すると齧られちまう。魔力を纏う様に薄い膜を張れる様に練習してみろよ。膜に流れる魔力に属性を混ぜれば体に触れられる前に倒せるぜ?」
「おお!いいですね〜なるほど、そのくらいなら何とか出来るかも…俺、放出系の魔法が本当にダメで集中力が続かないんですよ」
アドバイスを真剣に検討し、頭の中でイメージしてみると少し手応えを感じる。
「誰にだって得意、不得意はあるもんだ。自分の長所を伸ばしていきな!」
彼の大らかさが与える安心感が心地良く染みて、やる気もアップする。
「あのね、あんまり調子に乗るのは辞めなさいよ?」
美女からのもっともなアドバイスにも深く頷き同意する。
何せ思い返せば、調子に乗ったら直ぐに叩き落とされている。速攻だ。
あくまで、ド素人だという事を忘れてはいけない。
「ご忠告痛み入ります…」
俺の神妙さを感じ取ったのか、横を歩いている白狼がくぅんと少し甘えた声を出す。
ポンと背を軽く叩き、心配するなと宥める。
「ははっ!主人の感情に機敏に反応するなんて優秀だな」
「そうですね。本当に賢いです」
そんな話をしていると、少し開けて日当たりの良い場所に出た。
そこには、一面にまるで宝石のように煌めく青い花が咲き誇っている。
「スゲー!綺麗ですね」
花になんて一切興味の無い男でも感動する光景だ。
ルーもきゃーきゃー言って喜んでいる。
「あら、<妖精の献身>ね。随分咲いてるわ」
「妖精の献身?ですか?」
「そうよ、その昔はそれこそ雑草扱いされる程、どこにでも咲いていたのだけど、今じゃ自然の
自分で加工するには、技術が必要だが、練習する為にも少し摘んでおきたい。
森の獣達にも必要不可欠だろうから、三分の一程摘んで後はそのままにしておこう。
「根にも効能が有るからな、上手く処理して早く自分で作れるように頑張れよ?」
「はい!ふふふっやってやりますよ!試してみたい事があるんですよね」
魔力を使ってポーションを作る技術はまだないが、漢方のように利用するのはどうだろう?と思っていたのだ。
乾燥させて煎じて飲んだり、お茶として煮出してみるのも効果はあるのだろうか?ポーションほどの即効性はなくても時間をかけて治していく分には問題なく実用性があると思うので試す価値は十分にある。
それに、それくらいなら原料さえあれば誰にだって作れるので、治療魔法を受けられない貧乏人の救いになる。
そんな事を考えていると、白狼とショールと遊んでいたルーに飛びつかれ、オヤツが食べたいとおねだりされた。
「そうだな〜今日はここで休んで、今後の予定を考えるか…」
早速、異次元サコッシュから簡易テントを出し野宿の準備を始める。
簡易テントといっても見た目はただの傘だ。
その原理は説明されてもさっぱりだったが、傘を開くとテントに早変わり!という不思議道具なのだ。
しかも、空間魔法が施されているので中が広く、家具付きのため野宿とは思えない快適空間を提供してくれるありがた〜い代物、テントの周りには獣よけの魔導具をセットして完了。
今は、天気もいいのでテントの外でお茶とおやつを食べる事にする。
残念ながら飲食はできないらしい精霊王たちには申し訳ないと思いながらも準備を進める。
自分とルーには衛藤が用意してくれた甘いお菓子で、ロシナンテには乾燥した穀物を、そして白狼には先程彼らが仕留めた蛇肉を軽く炙り与える事にする。
「それで?お前さんはこのまま南に向かうのか?」
おやつを食べてうとうとし始めたルーを寝かしつけ、他のものも、のんびりしていると精霊王が、ルートの確認をしてきた。
「そのつもりです。大きな町も気になりますが、壊滅したって村もどうなっているのか確かめておいた方がいいと思うんです」
「そうね、魔虫は目に見える範囲では倒したけど、漏れがあったはず。それに魔素の浄化はしてないから、もしかしたらまた発生している可能性もあるわ」
「浄化できんのか?無理していきなりたおれんなよ?」
「マイナスで澱んだ魔素の浄化ですから、ドラゴンの気、つまりプラスをぶち込めばプラマイゼロになるはずなんですよ。だから、ルーができるか?になるですが、衛藤さん曰くドラゴンの本能でできるだろうと言われました」
「でも、共有者はドラゴンが力を暴走させないように気を配らないとだめよ」
「はい。その確認のためにもやっぱり試したいんですよね」
「とすれば…ここからだとアシヌスを全力で走らせて1日ほどか…ゆっくり行くなら3日はみておけよ?」
「そこそこ急いで2、3日とみておきます。その間に獣に襲われないといいんだけどな…」
「獣じゃなくて人間に襲われるかもよ?」
そう悪戯っぽくいう精霊王にびっくりする。
「え?人間ですか?なんでまた…」
「壊滅した村の生き残りが徒労を組んで山賊になったらしいぜ。森の深くには入ってこねぇけど、旅人を襲っているらしいな」
「…山賊ね、まだ人間とやり合う覚悟は無いからできれば会いたく無いなぁ…」
「一応、存在を知っているれば対処も変わるでしょ?頭の片隅にでも置いておきなさい。じゃあね、私たちはそろそろ行くわ。また、顔を出しなさいね」
「魔法の練習もさぼんなよ?躊躇せずどんといけ!またな」
「もう?!自由だな〜ありがとうございました。また、お会いしましょうね〜」
軽やかな挨拶を残してさっさと消えてしまう、二人が消えた辺りに声を張り上げるが、聞こえただろうか?……でも、近いうちにまたひょっこり現れそうだよなと思う。
「とりあえずは、壊滅した村の探索をしに行くことだな。浄化と魔虫の駆除が上手くいけばいいんだけど」
やること決まればれ、進むだけだぜ。
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