第18話しっかり話合おう
駆けつけた先で見たものは、俺に文句言ってきた気の強い女の子が、白狼に唸られ腰を抜かしている状況だった。
よく見ると白狼の後ろにはルーと幼い子達がいて一人はルーを抱きしめ、もう一人が泣きながらも二人を庇うように前に立っている。その様子を見て何となく何があったかを察したので急いでルーのもとへ向かう。
「ルー?どうした大丈夫か?君たちも落ち着いて、ほら泣かないでくれよ」
ルーが俺を見て抱っこをせがんだので抱き上げてルーを守ってくれていた二人の頭を撫でて落ち着かせようとしたが、興奮していて中々難しい。
「はぁ…白狼もルーは大丈夫だから落ち着け…」
ルーの小さな手を重ねるように持ち、白狼の首元を撫でると唸り声は小さくなりペロっとルーの頰を舐めた。
「守ってくれたんだな、ありがとう。ルー何があったかお話できるか?」
「あのね?るーね、くりーんしないのだめっていうの…るーわるいこ?」
基本的に聞きわけが良く、可愛がられているルーからすれば強い口調で否定されたのが初めてで戸惑ったのだろう。
しょげて眉は八の字になっている。
「そんな事ないよ。ルーはいつだって俺の言うことをきちんと守るいい子だよ?」
「どこがいい子よ!それにその狼は危険すぎるわ!私を襲おうとしたわよ?」
俺の言葉が聞こえたのか、言い返してくる。…その根性は認めよう。
「俺たちに危害を加えようとしなければ何の問題もないし、自分から襲うなんてしないよ?少し落ち着いて、いいかい?病気の子を治療して食事も与えたけど、俺たちは君たちの仲間でも何でもない。ただの通りすがりの旅人だ。しかも、最初に危害を加えようとしたのは君たちの方だよね?」
自分たちの立場をもう一度きちんと弁えてほしくてゆっくりと話す。
「さっきも言ったけど、何をどこまでするかはこちらが決める。やりたくないことはやらないよ。君たちがしてきた苦労は俺たちには関係ないことだしね」
そう言って見渡すと、女の子達はあからさまに不機嫌な表情をしているが、男の子達のほとんどが神妙な顔つきだ。
「君たちが森に居る理由はさっき聞いてきたよ。寝込んでいた子が目を覚まして意識もしっかりしていたからね。大変なめにあったね。家族や親しい人を亡くしただろうし、今だって苦しいだろうけど、それでも生きていくなら現実をしっかり見よう…」
「知った口聞かないでよ!あなたに何がわかるの?私の苦しみがわかっているならもっと優しくしてくれるはずだわ!」
俺の言葉を遮って怒鳴り、泣きながら走り去っていくが、あまりの言い草にボー然と見送ってしまった。
「えっと、君たちも同じ考えなのかな?」
それならもう気兼ねなく放っておけるなと思いながら尋ねると、彼らは顔を見合わせ首を横に振った。
「えっと、俺はあなたにとても感謝しています。アイツらが倒れてこのまま死んじゃうかと不安だったけど、あなたのおかげで助かりました」
「俺も、腹が減りすぎてなんかよく考えられなくなってたけど、ちゃんと悪い事の区別はついてます。あなた達を襲ったのに、手を差し伸べてくれてありがとうございます」
口々に感謝の言葉を口に出す男の子達とは逆に、二人の女の子は俺を睨みつけて「偽善者」と罵って立ち去った。
その後ろ姿をため息をついて見送ったが、残った彼らはとても気まずそうにしている。
近くにいた子に虚で休んでる子を呼んでくるようお願いして他の子にはその場に座ってもらう。
「ちょっと、ゆっくり話し合おう…ね?」
「すぐ呼んできます」
まだ体力が戻っていないので、ゆっくりと歩いてくる姿を見て、座っていた子が肩を貸すために走っていく、そして歩けるほどに回復したことを喜びあって笑っていた。
その自然と助け合いができる様子に安堵して、この子達はまだ大丈夫かなと思う。
暗くなってきたので、焚火で暖をとりながらまずは、俺の懸念事項を聞いてもらう。
「まだ体力が戻ってないのに呼びつけてごめんね。でも、なるべく皆に聞いてもらいたかったんだ」
「いえ、まだ確かにふらつくけど、歩けるのがわかりましたし、俺たちも一緒に話したかったので問題ないです」
「それなら遠慮なく、さっきこの子たちには話したけど、この森に長期間いるのはおすすめしないよ」
この場に残っていた子達が驚いたようにこっちをみて質問する
「なんでですか?今までなんとかやってきましたよ」
「この森は自然の気に溢れていて、個人差はあるけど、いずれこの子達のように皆が魔力過多になって、対処しないと最悪死ぬことになる。村の大人に森の奥には行くなって言われなかった?」
「はい…だから奥には行ってません」
「奥に行かなくても、森の中ってだけで人によっては大きく影響する。この子達は残念だけど、ここでも危ないんだよ」
倒れた子達を指して言うと初耳の子達は驚いて固まってしまった。
「だからこの先どうするかを話し合って欲しいんだ。ここで、魔力過多にならない様に自分達で工夫して暮らす方法をでもいいし、森を出てどうするかでもいい。とにかく自分でこの先ことを真剣に考えてね?」
そう言って黙ると、それぞれが真剣顔つきで考え込んでしまった。
手持ち無沙汰になったので、焚火を利用してお茶の準備をする。
さっき怒鳴られて、落ち込み気味のルーに協力をお願いすると嬉しそうに「おてつだいする」と俺の後をトコトコついてくる。
ルーと共に土魔法で適当に作った土器を焚火に直接ドンと置き、中を水で満たす。
ついでにコップも人数分作った。
飲み物は<妖精の献身>を乾燥させて作った特製の茶葉を使用したお茶だ。
彼らに飲ませて効果を確認するのだ!自分で試飲した時は味が若干苦くて、好んで飲みたいとは思えなかったし、何せ健康優良児なので肝心の効果が不明だったのだ。その点彼らは格好の実験…もとい対象者だろう。
今は、ワクワクしながら湯が沸くのを待っている。
彼らも話し合いを始めて、意見を出し合っているが、ちゃんと互いの言葉に耳を傾け、相手を尊重する全うな議論をしているので、ちょっと驚く。10歳から14歳くらいに見える少年達が、ここまで理性的に話し合えるなんて想像してなかった。
彼らは何故、山賊の真似事などしていたのだろう?この子達ならリスクを考え短絡的に人を襲うなんて実行しなさそうにみえるのに。
…やっぱり、発言権がなかったのかな?残念ながら女の子達は理性より感情で動いている様に見えたし、先程の様子からみても自分の意思を絶対に曲げない押しの強さが全面にでていたしな…
湯が沸いたので特性茶をしっかり煮出してコップに注いでいると、幼子達だお手伝いしますと声を上げてくれたので、入れたお茶を配膳してもらう事にする。
「熱いよ?気をつけてね?」
「大丈夫です。ハイどうぞ」
ゆっくり、一人一人に配り終えてくれた彼らにもお茶を渡す。
「これは、あんまり美味しくはないけど、体に良いお茶だからできれば全部飲んでね?」
子供にはだいぶ苦く感じると思うが、文句も言わずちゃんと飲んでくれた。
飲み終わった彼らに乾燥を聞くと、味は微妙だが、飲むとじんわり体が温まり何故かホッとするという
…うむ、思っていた効果と違うな、ちと効果が弱すぎる、煮出しが足りなかったのか?
まだまだ改良の余地がありそうだ…
「どう?そろそろ意見は出揃ったかな?どんな感じでまとまりそう?」
そう尋ねると、みんなの議論から少しだけ距離をとることでより客観的に場をまとめていたいた子が代表して答えてくれた。
「僕たちはこのままこの森では暮らせないということ、一度村に戻って確認してみる事、村の状態によっては他へ移動する事で意見は一致しています」
「襲われてからは戻った事ないんだよね…」
「はい…魔虫に襲われた村がどうなっているのか、僕たちは知りません。だからもしかしたら生き残った村の人が戻っているかもしれない」
「確かにね、村自体が魔虫によって壊滅したとしても君たちが生き残った様に他の人も命は助かったかもしれないよね」
「そうなんです。だから戻ってみる価値はあると前から思っていたんですが、まだ魔虫が村にいる可能性もあります。その場合は今度こそ助からないかも…」
「戻る価値はわかっていても、その恐怖が君たちの足を竦ませていたんだね?」
「…森なら魔獣は出ないし安全だって言われて、あの恐怖をまた味わうのが嫌で色々みて見ぬ振りをしてきました。でも森にい続けることが緩やかな自殺だって教えられてそれは嫌だなって、生きるために足掻くならもっと前向きに行こうって思って…」
「それはみんな一致の意見かな?」
「そうです。僕たちはとにかく村へ戻ってみます」
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