第19話先へ進みます

 「わかった。無事に村にたどり着けるといいね。でも、それはここにいる君達だけの意見だろ?女の子達は反対するかもしれないよ?そうしたらどうするの?」

 彼女達は、自分達を除け者にした上で不利な行動を彼らに提案されたと反発してくるのではないかと不安がある。

 彼らも同様な不安があるのだろう、落ち着かなげに顔を見合わせている。

 「話を聞いてくれればいいな、って思います。できれば、一緒に村に戻る選択をして欲しいけど…」

 「あいつらが俺らの言うことに賛成するかな?」

 「…とにかく話だけはしてみようよ。俺たちの提案を受けるのか拒否するかは彼女達に任せればいいんじゃないかな?強制じゃないことをハッキリ伝えてさ」

 「もし反対されたら、ここから別行動にしよう。今の俺たちは、自分の命を守るだけで精一杯で他の人の面倒までは責任もってみれないよ…その事をもっと早く自覚するべきだった…」

 「そうだな…今よりきつい状況になるかもしれないだろ?それなら、意思疎通のできない仲間とは決別した方がいいもんな」

 彼女達には甘ったれた謎理論をぶつけられたので、この世界も案外平和ボケしているのかと思っていたが、この子達はシビアに状況を判断して決断を下せている。

 決して安全は約束されていないのだ。

 何より自分の命を守るなら、持てる荷物を厳選し、なるべく身軽でいるのは当然だろう。

 彼らも別に彼女達にいなくなって欲しいわけではないだろうが、特別扱いを当然のように要求してくる面の厚さには辟易してたのが雰囲気で伝わってくる。

 その気持ちはわかる…

 だから、その判断を否定したりはしない。

 「俺は君達の意見にケチをつけたりはしないよ?話し合って納得しての答えなんだろうからね。ただ、一つだけいいかな?」

 「…なんでしょうか?」

 「この子達なんだけど、君たちの村の出身じゃなくて、どうやら親に捨てられたみたいなんだよね?なら、この幼子達は今の君達にとってはちょっと負担なんじゃないかな?だったら俺が預かろう、南の大きな町に行く予定なんだ。そこなら孤児院だってあるだろうし、そこで過ごすほうが、この子達にとってもいいと思うんだけど?」

 そう提案すると、彼らは幾分ホッと安堵した様子を見せた。

 「そうしてもらえるとこっちも安心します。

これからを考えると、こいつらは今より辛い思いをするのがわかりきってるだけに申し訳なくって…」

 「君たちは自分だって苦しい中でこの幼子達を見捨てず受け入れたんだ。それは、決して無駄な事じゃなかったよ?その精神と行動は立派だと思う。でも、そのぶん君達は辛かったよね?自分以外の命の責任を背負うのはさ…俺はそれを素直に凄いって尊敬するよ」

 「いえ、そんな…あの、ありがとうございます。褒められたら、なんかやる気が出てきました」

 そう言って一人が笑うと、つられるように何人も笑って結局みんなが笑顔になった。

 「笑ったのなんて久しぶりだな…よし、この勢いでアイツらと話し合いに行こう!今なら落ち着いて話せそうだ!」

 そう言って彼らは走って行き、俺はその後ろ姿に頑張れとエールを送っておく。


 彼らが去って、俺は幼い二人に向き合う

 「それじゃあ、改めて自己紹介しておこう。これからしばらく一緒に旅をするんだからね?俺は、将だよ。よろしくね?」

 そう言って幼子に挨拶すると、ちょっともじもじしながら、名前を教えてくれた。

 「ぼ、ぼくはニコです…こっちは弟のティム。あの…本当に僕たちを町まで連れて行ってくれるんですか?」

 「うん。そのつもりだけど、もしかして嫌だったかな?勝手に決めてごめんね?」

 「いえ!嬉しいです。僕たちだけで町までなんて絶対行けないし…お兄ちゃん達に迷惑かけている事が悲しかったから…」

 そう言って俯いてしまったニコに向かってルーが手を伸ばし「いいこね?なかないで?」と慰めるので、ニコは逆に泣き声が大きくなってしまい、弟のティムもつられて泣き出してしまった。

 ルーまで困惑して泣きそうになっているので、まとめて抱きしめて落ち着くまで背を撫でる。

 きっと泣く事もできず、ずっと我慢してきたのだろうなと思うと苦しくなった。

 ならば、泣き疲れるまで泣いてスッキリさせよう、泣く事でストレスが発散できるって聞いたことがあるし、その後は思いっきり笑わせてあげようと決めた。  

  

 泣き疲れて寝てしまった子達をそっと寝かせて、寒くないように焚き火を調整していると、大声で怒鳴る声が聞こえてきた。

 どうやら話し合いは上手くいってないようで、予想通りの展開にアホだなと思う。

 彼女達が冷静に考えれば、出された案を拒否する要素はないなのに、感情的になってしまい受け入れたくないと否定しているのだろう。

 そうやってごねれば、彼らが折れて言うことを聞くと嫌らしい学習をしたのがわかる。

 彼女達は自分達がいなければ彼らはどうすることもできないと勘違いをしているので、強気で物を言うが、今回は彼らも引かないからさらに意地になっている。

 これは無理だな…と彼女達は切り捨てていくことにする。

 村を魔虫に襲われ、命からがら逃げてきたのに助け合うことを拒否し、あくまで自分本位で物事を考え行動する人は邪魔でしかない。それに、今回その人間性に目を瞑ってもどうせすぐ同じことをしでかす。

 ならば、無駄なことをする必要はない、冷たいだろうが、俺は聖人君子ではないので諦めてもらおう。

 

 子供達はこのまま朝まで寝そうなので、白狼とロシナンテを呼び寄せ、側で守るように言いつける。

 白狼の頭を撫でながら、こいつには名前をつけてないと気づいて申し訳なくなった。

 「名前つけような?うーん…オオカミ…オオカミ王ロボ。うん!ロボにしよう。お前の名前はロボだよ。改めてよろしくね」

 白狼改ロボの背を叩くと尻尾をフリフリして顔を舐めてきた。

 「よし!ロボ俺は少しこの場を離れるから後を頼むぞ?」

 子供の前では、あまり狩りをしてたくないので、ロボに子守を任せて、ロシナンテに跨り暗くなった森の奥へ向かって走らせた。


 朝になる前のルーが目覚める前に狩りを終えて戻ることができたが、元から眠りが浅くなっていたニコとティムが物音で起きてしまったので採った果実で即席ホットジャムもどきを作ってあげる。

 もっと甘味を足したいが、生憎手持ちにない…是非とも蜂蜜をゲットしなければと心のメモに記入していると、甘いものを食べたのは本当に久しぶりなのだろう二人は満面の笑みで美味しいと言ってくれた。

 うんうん、いい感じだ。

 特製茶を飲む時に試しにジャムもどきを少し入れて味を調整してみたら、これが意外と美味しかったので、二人にも飲ませることにした。

 余った湯を使って二人の顔を拭いてやると、温かいタオルの心地よさにほわぁ〜とした表情を見せてくれ、その気持ちわかると俺も力強く頷く。

 おしぼりは素晴らしいよな…

 そうこうしているうちにルーも起きたので、本格的に朝ごはんの準備を始める。

 今日も消化のいいスープにするが、具材を大きめにして肉も多めに入れることにする。

 これで腹持ちも少しよくなるし、移動するなら食べて体力をつけないと体がもたない。

 小さい子が積極的にお手伝いをしてくれるので、味見をしてもらうと美味しいよ!と元気よく褒めてくれるので気分がいい…


 先に、ロシナンテとロボへの餌やりをしていると、スープの匂いに釣られたのか、みんなが起きてきた。

 だが、その顔色が冴えなくて不思議に思っていると、女の子達とは意見が決裂して別行動することに決まったのだという。

 それは、薄薄そうなると覚悟していたけど、あまりに酷い暴言を長時間聞かされて、うんざりしてしまったそうだ。そりゃ、大変だ…

 彼らに朝食のスープを渡し、お礼を言われていると、当然のように彼女達も朝食を要求してきた。

 別にいいが、そのもらって当然って態度はいかがなもんか…スープを配っていたニコからひったくるように奪いとり離れていくので奪われたニコがショボンとしている。

 ニコの頭を撫でて気にするなと言っていると、彼らの方が申し訳なさそうにしゅんとしている。

 「俺たちは、これからすぐにここを経つから気にするな。ちょっと気になるから君たちの村へ行ってみるから向こうで会うかもな。あんまり無理しないように!自分達のペースで歩きなよ?」

 「はい、何か何までありがとうございました。僕たちもこれから行動を開始します。そうすれば暗くなる前に村に着くと思うので」

 「そっか、よしこれは一応予備の食料として持っていきな、果実と干し肉が入ってる。果実は日持ちはあんまりしないけど、無いよりマシだろ?」

 「こんなにいいんですか?」

 嬉しそうに袋を抱きしめて、喜ばれたのでこっちも用意した甲斐がある。

 「いや、この人数ならもって2日だろ?でも移動中に食材探しとかしないで済む分ラクになるかなって、無事に村に着くといいな?頑張れよ!」

 

 彼らとは一旦ここでお別れだ。

 また、村で会おうなと言い合い先に出立する。

 兄弟をロシナンテに乗せルーはロボへ、そして俺は足を強化してそこそこのスピードで歩き出した。

 さて、魔虫に襲われた村はどうなっているのかな?数人でも人がいればまた事情が変わってくるだろう。

 

 

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