第6話教えてドラゴン先生 1
俺が他の共有者を思い、遠い目をしていると、起きた子供が側にやってきて膝の上に乗ってきた。
驚く程、軽いが、元が20センチのチビドラゴンなら、こんなものかもしれない。
「もう、ぼうけんいける?ぼくできるよ」
相当、冒険したいのか催促されてしまう。
「もうちょっとだけ待ってくれる?勿論、冒険できるのは知ってるよ。何せ君が、俺をこの世界に連れてきたんだからね。それよりお名前を聞いてなかったね。俺は、小鳥遊将だよ。将って呼んでね」
膝から落ちないように小さな身体をささえて改めて自己紹介をする。
「…しょう…ぼくは?ねぇしょうぼくのおなまえはなに?」
こてんと頭を傾けて名前を尋ねられてしまい、慌てて衛藤に確認する。
「え?あっあの、衛藤さんこの子名前なんて言うんですか?」
「名付けは共有者がするんだよ。その方がより強固な結びつきになるからね。だから将さんがつけてあげてね。」
「そんな大事な事を急に言われても困ります!俺、センスないんだよな…どうしよう」
名前をつけるなんて重量級の覚悟と責任をもって立ち向かうことをさらっと要求されパニックになる。
「そんなに気に病むな。余程、奇怪な名でない限り文句なんて言わん」
…どんな名前が奇怪なの?
これ以上は無理と言う程、脳味噌を振り絞って考え恐る恐る音に出してみる。
「…ルーってどうかな?確か、ケルト神話の太陽と光の神の名のはず、武や知、それに医術や魔術など全般に優れている神。この子は勇敢で度胸もあるし賢そうだから、名前負けもしないでしょ?」
「……るー、ぼくは、るーだよ!」
子供が元気よく両手を上げ名乗ると、左胸の心臓の辺りが熱くなり、何かを刻み込まれた感覚がする。
「うっ、痛っ。なんだ?!」
慌てて服を捲り覗き込むと痛んた場所にドラゴンの紋章が浮かび上がっていた。
「これは、一体…」
「名を授けたからだな。きちんと共有者として繋がった証拠だ。その紋章が其方とこの子を繋ぐ回路となり、ドラゴンの力が其方を守るだろう。」
「仮契約から、本契約になったって事ですか?」
「……その通りだ。身も蓋もないが、わかりやすいな。理解が早いじゃないか。」
少々呆れられたが、褒められた。
確かにより強くハッキリとルーの存在を感じることができる。
例え離れていたとしても、何処にいるかわかる位ハッキリだ。
迷子防止にGPSを付けられたペットの気分になるが、安心感が半端なくある。
「なんか、何でもできる気がします。俺、もしかして転移してチートを授かっちゃったのでは?」
調子に乗って、浮かれていると、残念だけどと、すまなそうな声が水を差してきた。
「え?チートはお約束なのでは?」
「うん。僕もそれ期待したし、ある意味ではチートなんだと思う。だって他には見えないドラゴンを見れるし意思疎通もできる。見た目もイケメンに変わって寿命もない。それに、世界を渡ったのに言語も問題なくわかるって実はすごい事でしょ?」
「…はい。あの、でも、魔法も使えるって言ってませんでしたか?」
「使えるよ。こちらの世界の人間からしたら魔力も多いけど、使いこなせるかは話は別なんだよね。将さんは最新型の高性能機器の性能を理解し、直ぐに遺憾なく発揮させて使いこなす事ができる?」
「…無理ですね。機器が何かにもよりますが、大抵は基本的な動作しか使えないです。時間をかければある程度はできると思いますけどね。」
「でしょ?それと一緒なんだよ。しかも魔法は、性能が良すぎてオプションがつきまくりだから簡易の動作をさせるのにも無駄に手順を踏まないとダメな機器って感じで、余計に面倒くさくなる。僕たち現代日本人は特に機械の方が楽に感じるんだよね。」
「なるほど…言われてみれば…たしかに現代日本は、あらゆる事が機械で簡単にできる。それは、昔の人から見たら魔法の様に感じるでしょうね。」
なんだ、俺は元々ファンタジーの世界に居たのかと思考が混乱する。
「落ち着いて、魔法が使えないわけじゃない。寧ろファンタジーに慣れ親しんだ人ならある程度は身につくのも早いから安心してよ。ただ、僕たちにとっては、あくまで想像や物語でしかなかった事を出来るようになっても、それは此処では、すべて現実だってことをしっかり理解して欲しいんだ。」
真剣な表情をした衛藤は、将に自覚を持たせる為に敢えて強い口調で話す。
「将さんはまだ現実味がないから、転生や転移もののお約束として、魔法はかなり万能で例えば失った四肢を元通りにしたり、死んだ人を生き返らせたりができるのが当たり前で、自分もできるようになるって、簡単に考えてるとこありませんか?」
「ええっと、はい、そうですね。魔法に慣れればそれくらいはイメージの力でできるようになるかなって、ちょっと思ってます。」
「無理だな。」
話を聞いていたドラゴンが、あっさりと否定する。
「失ったもの、消えた命はどうやっても取り戻すことはできない。それは、魔法云々の話ではない、生命の創造は神の領域だ。そしてこの箱庭では創造主が許さないだろう。」
最古の竜はその理由として、今現在のこの世界、
この箱庭を創造主が創りあげた当時は、今より創造主の力が色濃く漂い、身近に感じられた。
人々はその存在を神と崇めた。
そして、100年ほど経った頃、ある傲慢な人間が魔法の深淵を覗こうとして神の領域に手を出した。
死を超越しようと、死んだ人間を蘇らせる魔法を編み出す研究を始めた。
ありとあらゆる種族に対し、非道な方法で実験を繰り返したのだ。
死を極端に恐れ、権力と金を愛し、戦争のために兵を必要とした、当時の驕慢な支配者達は、かの者達を全面的に支持し、どんな非道な事が行われていても目を瞑り許した。
流れた多くの血が、大地に大漁に吸い込まれ赤黒く一面を染め上げた。
もはや犠牲者の数が数えきれなくなった時、遂に魔法が完成した。
だが、その瞬間に轟音と共に雷が落ち大地は破れ、大嵐が人々を襲った。
被害に遭うのはその非道な研究に関わった国だけだったが、創造主は人間の欲に溺れた傲慢さを断罪し、人々がどんなに神に縋り許しをこうても、人を目掛けて雷は落ち続け、そして、嵐が国と共に全てを流した。
この神の怒りから唯一生き残ったのは、非道な研究実験の被験者達で彼らは、このことを≪神の雷≫と呼び、決して忘れず、例え魔法技術が進歩したとしても、失いしものに関して手を出す事を神は許さないと理解した。
以後、それらの魔術を研究する事を禁忌とした。
しかしそれから500年の時が経つと、被害の記憶も遠くなり、《神の雷》も神話となる。
人々の中には、ただの御伽話としてしか受け止めない愚かな者もいた。
魔術で他国に遅れをとるなと、激を飛ばし、禁忌に手を出す者達が出始めたのだ。
それが2度目の≪神の雷≫を降らせることになった。
1度目でも許されなかったのに、2度目だ。
創造主は徹底的破壊することにしたのだ。
一部の罪のない人間と他の種族達、動物はドラゴンに庇護させたが、大陸中で大規模な雷と嵐が数ヶ月も続いたのだ。
大陸そのものを沈めるかの如く、荒れ狂った嵐が過ぎたのち、ドラゴンによって守られた者達は、それぞれ島から旅立ち、荒れ果てた見るも無残な大地の姿に神の怒りの強さを知る。
その後、ドラゴンは体内に蓄積されていたエネルギーが消滅寸前まで少なくなっていたので再度エネルギーを安全に蓄える為に、島を閉ざし永き眠りについたのだ。
2度目の≪神の雷≫後、人々はあれだけ溢れていた神の気配を感じる事ができ無くなり、その後、強い魔力を持って生まれる人間が極端に少なくなったことで、神の怒りは未だ解けていないのだと思いこんだ。
神に見捨てられた。
その恐怖と哀しみに押し潰されそうになりながらも、人々はひたすら祈り続けた。
それから400年後、ドラゴンが永き眠りから目覚めた時、箱庭には新たな問題が起こっていたのだ。
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