第7話教えてドラゴン先生 2

 ゴクリと唾を飲み込み、膝に座るルーを抱きしめる。

 キョトンと見上げてくるルーの可愛さに心を落ち着かせて、ゆっくりと深呼吸をする。

 「眠りから覚めた時、エンシェントさんはどうされたんですか?」

 「そうだな…違和感を感じ、その理由を探ったな。世界を包み込んでいた創造主の気配が薄れ、しかも自然のエネルギーに、妙に濃い負のマイナスエネルギーが混ざり込んでいたからな。本来なら草木や大地に自然と吸収され浄化されるはずだ、その濃さに驚いた」

 「それが、新たな問題なんですか?」

 「それも関係しているな。人間共は創造主が箱庭エデンを見捨てたと思い込んでいたようだが、そうではない。確かに、人間程度の魔力では感知が難しい程、小さくなっていたし、多大な恩恵もなくなった。2度の≪神の雷≫を落としたことで、創造主の力が以前より弱まったのも確かだ。直接≪神の雷≫程の力で手を下す事ができなくなったからな。だから遠くから眺めることにしたのさ。そしてたまに口を出す。愚かな過ちを繰り返す人間に怒り、失望されたが、同じくらいに逞しく、短い生を謳歌するため貪欲に行動する人間や個性豊かな他の生物達を見る事を楽しんでいたからな。」

 最古の竜は、目を細めながら愛おしいそうに創造主の事を語る。

 その言葉の端々から創造主への敬愛が込められているのを感じ、不思議と心が温まる。

 400年も眠りについて、起きた時に敬愛する主の気配が薄れているというのは衝撃的だと思うが、最古の竜にとって、それは些細なことのようで、眠りから覚めた時に起こっていた問題の話をゆっくりとはじめた。

 

 人間は、神の気配を感じられなくなったが、神を信仰する事は辞めなかった。

 ドラゴンが護った地域以外は草木も生えていない荒れ果てた大地があるだけだったが、皆で力を合わせることで、長い時間が掛かったが、大地は芽吹き、草木が増え緑豊かになっていった。

 大地が芽吹く事こそ、神が完全に見捨てていない証拠だと希望を持つ。

 しかし、箱庭は確実に以前とは違う世界になっていた。

 創造主が≪神の雷≫を落とした時、哀しみと怒りの他に確かに滅びを願う負の感情もあった。

 雷を通し、神の負の感情が大地に大量に降り注いだ為、本来なら、きちんと浄化された自然の気のみが世界を包み込んでいたのに浄化が間に合わず混ざり込んでしまったのだ。 

 一度、混ざった事で箱庭の浄化システムがおかしくなったのか、負の気がうまく処理できず、その後も蓄積され所々で魔素だまりができるようになった。

 

 そして、魔獣が生まれた。

 

 魔獣の存在は、創造主の想定外のものだった。

 しかも、一時的な存在ではなく、倒しても次から次とドンドン現れ、数だけでなく種類も増えた。

 創造主はもう手は出せない為、ドラゴンに対応させることにしたが、力を取り戻したばかりのドラゴン1頭では、濃い魔素だまりを浄化する位しかできず、後手に回るばかり。

 その為、新たなドラゴンを生み出そうとしたが、創造主には莫大な力を必要とするドラゴンを創造することができず、やもなく現存しているドラゴンに与えられるだけの力を与え、子を生ませることにした。

 しかし、流石のドラゴンも神の力を与えられたとしても、力の源である自然の気に負の気が濃く混ざった不純物で子を創り、生み出すことはあらゆる意味で危険すぎ、できずにいたので、魂の共有者を見つけ出す事にしたのだ。

 創り出されて1000年経った最古の竜は、既に箱庭にその存在が強く結びついていたので世界を渡るのためには、膨大で繊細な力の操作を要求されるれた、失敗したら消滅しかねない。

 それでも、魂の共有者を得ることは絶対に必要だ。

 互いに力を分け合うことで、より強力で強固な存在になるからだ。

 そうなれば、ドラゴンを生み出すことができるだろうと、早速、もはや微かにしか感じ取れない共有者の存在を頼りに世界を渡り、衛藤を連れて帰還したそうだ。

 

 「……すごいなそれ、まるで仕事を辞める前の有給消化中に重大なミスをしていたことに気がついて、後輩にこっそり尻拭いさせようとしている社員のようだな。手は出さないが、口は出す。それなら自分でやれって言ったら、今、海外なの〜って返事してくるやつ」

 心底呆れた俺の呟きに、衛藤が吹き出す。

 「ぶはっ!確かに!事情があってもそんな事されたら頭にくるね。誰がやるかって思うけど、でもさ、そのミスを放って置けば自分だけじゃ無く、会社に多大な損害が出るってわかったら渋々でも、仕事に取り掛かるよね。」

 「そうですね…理不尽で嫌ですけどね。ドラゴンが最初に世界を渡るのに1000年かかったってそういうことですか…本来は、万が一を想定しただけで、使用しないに越したことない切札的な物だったんですね。それで衛藤さんが箱庭に連れてこられたんですね。」

 「最初は、自分の目が信じられなかったよ。ルーは幼竜だから本来の姿はとても小さいけど、エンシェントはまさに恐竜サイズだったからね。バイト帰りに道で遭遇したんだ。しかも、目が合ったと思ったら、死にそうな苦痛で気絶。目が覚めたら異世界って何だそれって感じ」

 昔を懐かしむように言うが、すごい状況に震える。

 自分が出会ったのが、愛らしいトカゲで良かった…ルーの頭を撫でながらホッとする。

 「む、カッコいいと言っておったではないか、とにかく共有者を得て我は、4頭のドラゴンを生み出したのだ。」

 不機嫌そうに眉間にしわを寄せ、説明をぶん投げる。

 「4頭一気にですか?それって大丈夫でした?生み出すのも世界を渡るのも力が必要なんですよね。4頭とも共有者がいるってことは、それだけ世界を行き来したんでしょ?」

 驚いて質問すると、衛藤が捕捉してくれた。

 「…エンシェント、端折り過ぎだよ。2頭ずつ、100年毎で合計4頭です。それでも結構やばかったんだけど、箱庭中、至る所で魔獣が出現して早くしないと本当に危険だったんだよ。」

 「なるほど、現在は4頭いるドラゴンで取り敢えず対応出来ていたのに、さらにルーを生み出す必要が起こったって、ことなんですよね?」

 「そうだ、この200年落ち着いていた魔獣の出現が異常に急増した。魔素だまりもいくら浄化しても直ぐに出現する。浄化が間に合わな過ぎる。これは、また何処かで禁忌に手をつけたか、人のみで不相応な野望に囚われたものが愚かな行為をしていると思われる。魔素だまりの浄化と魔獣の退治だけで他の4頭は手一杯だ。改めて、お願いする。其方とルーには元凶を調査し対処をしてほしい。」

 最古の竜の言葉に、ルーが元気よく手をあげて返事をする。

 「あい!!るーできるよ!」

 幼い魂の共有者が、こう言って張り切っているのだから、やらないわけにもいかない。

 

 (…お願いです。今日はもう休ませて、情報過多で頭がパンクしそうだよ。)


 

 

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